弁護士 若竹宏諭
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」が令和3年4月21日に成立し、同月28日に公布されました。この法律は、一般にプロバイダ責任制限法と呼ばれており、インターネット上での情報の流通により権利を侵害されたとする者が、一定の要件を満たす場合に、当該情報を発信した者の発信者情報の開示請求をするためのルール等を定めています。今般、近年のインターネット上の情報の流通が増加したこと、インターネットを利用したサービスの多様化、権利侵害情報の流通増加といった情勢の変化が背景となり、被害者の救済及び発信者の権利利益の確保の双方の観点から新たな裁判手続等が創設されました。
この改正法は、令和4年10月1日に施行されることが決定しています。本改正法の概要は以下のとおりです。
この改正法は、令和4年10月1日に施行されることが決定しています。本改正法の概要は以下のとおりです。
改正の概要
発信者情報開示命令、提供命令、消去禁止命令という裁判所による3つの命令という新たな裁判手続のほか、SNSサービス等にログインした際のIPアドレス等を開示対象にすることを念頭に置いた、特定発信者情報の開示請求権が創設されました。
新たな裁判手続
発信者情報開示命令は、簡易迅速に発信者情報開示を実現するための決定手続(訴訟ではありません。)です。発信者の情報開示を求める被害者は、サイト管理者(掲示板運営事業者やSNS事業者等)に対する発信者情報開示命令申立てを行い、この手続に付随して行う提供命令申立てを通じて経由プロバイダ(通信事業者等)に関する情報を入手します(発信者情報開示命令の申立てに対する裁判所の決定前に入手できます。)。そして、その情報を元に経由プロバイダに対して発信者情報開示命令申立(併せて当該情報の消去禁止命令申立ができます。)をし、サイト管理者に対する発信者情報開示命令申立ての手続との併合審理を受けることで、当該手続との一体的な審理を受けることができます。さらに、経由プロバイダに対する申立ての事実をサイト管理者に通知すると、サイト管理者が、経由プロバイダに対して、発信者に関するIPアドレス等の情報を提供し、経由プロバイダにおいて、申立ての対象となっている発信者に関する情報の保有の有無を確認できるようになります。
このように、従来2ステップで進められていたものが、一体的に審理され、かつ、情報の受け渡しがスムーズになされることで、開示決定までの期間も短縮されるといわれています。
このように、従来2ステップで進められていたものが、一体的に審理され、かつ、情報の受け渡しがスムーズになされることで、開示決定までの期間も短縮されるといわれています。
開示範囲の拡大
ログイン時のIPアドレス等の開示対象とすることを念頭に、「特定発信者情報」の開示請求権が創設されました。特定発信者情報とは、要するに、ログイン又はログアウト等のために行った通信(侵害関連通信)に関する情報です。侵害情報を投稿した際の通信に関するものではなく、あくまで侵害情報の投稿に付随するものに過ぎないため、その開示要件が加重されています。
なお、この特定発信者情報は、発信者情報という概念に含まれるため、従来の発信者情報の開示請求権は、「特定発信者情報以外の発信者情報」の開示請求権として整理されています。
なお、この特定発信者情報は、発信者情報という概念に含まれるため、従来の発信者情報の開示請求権は、「特定発信者情報以外の発信者情報」の開示請求権として整理されています。
その他の改正事項
以上のほか、投稿者に対する意見聴取事項の追加、発信者情報開示命令を受けたときの投稿者への通知義務等に関する改正も行われました。