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デジタルプラットフォーム提供者の契約責任-欧州連合司法裁判所のウーバー・テスト及びELIモデル準則を参考として

更新日:2022.08.29
弁護士 志部淳之介
1 我が国における議論
近時、デジタルプラットフォームに関する法律が、相次いで成立した。令和2年5月には、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(いわゆる透明化法)、令和3年5月には、取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(以下、「DPF消費者保護法」という。)が成立した。後者では、違法商品の流通などの不適切な事例に対応するため、消費者による販売業者の情報開示請求権等が整備された。
他方で、トラブルが起きた際に、デジタルプラットフォーム提供者(以下、「DPF提供者」という。)が契約責任を負うかという点について、直接規定した条文は存在せず、今なお議論の対象となっている。DPF提供者の契約責任というテーマは、消費者法学会でも取り上げられる等、近時、注目を浴びている。
これらの議論は、デジタルプラットフォーム上で取引に関しトラブルが起きたとき、DPF提供者がいかなる場合に責任を負うかを判断するに際して、裁判所がどのような要素に着目して判断を行うかのヒントを提供するものであって、実務的にも重要である。
例えば、DPF提供者が、デジタルプラットフォーム上に自らを販売業者と誤認させるような表示をしていた場合には、名板貸責任の法理ないし規定の類推によりDPF提供者が販売業者としての責任を負うとする見解や(*1)、DPF提供者の法的地位を、主催旅行契約における旅行業者の立場に近い、特殊な保証責任を負うものとする見解(この場合、販売業者はDPF提供者の履行補助者と位置づけられる)(*2)等がある。
なかでも、欧州連合司法裁判所の近時の裁判例を参考として、DPF提供者の民事責任について論じたものとして、カライスコス アントニオス京都大学大学院法学研究科准教准教授の論考(*3)は、我が国の今後の方向性を予測する上で重要な示唆を与えるものである(以下、「カライスコス論考」という)。
2 カライスコス論考の概要
この論考は、欧州連合司法裁判所の近時の4つの裁判例(Uber Spain判決、Uber France判決、Airbnb Ireland判決、Star Taxi App判決)を分析し、これらの判決で用いられた「ウーバー・テスト」と呼ばれる基準に着目している。ウーバー・テストは、DPF提供者が単なる「仲介サービス提供者」にとどまるのか、これを超えてプラットフォームを経由してサービスを「自ら提供」していると評価できるかの基準として機能し得るとのことである。
ウーバー・テスト
ウーバー・テストが重視するのは、次の2点である。

①サービス提供のための代替的手段の有無
DPF提供者による仲介がなければ、消費者がデリバリーの運転手によるサービスを受けられなかったか

②決定的な影響力の有無
DPF提供者がサービスを提供するユーザーに対し決定的な影響力を及ぼしていること
さらに、②については、次の事情が考慮される。

(イ)DPF提供者による最大価格の設定(価格設定への関与の有無)

(ロ)DPF提供者による代金の一時的な受取(支払プロセスへの関与の有無)

(ハ)DPF提供者を経由してサービスを提供する者に対する管理及び一定の水準を満たさない者を排除する可能性(管理及び排除の可能性)
カライスコス論考は、②の「決定的な影響力」という概念が、ELIモデル準則(*4)に影響を与えているという。すなわち、モデル準則20条(1)は、DPF提供者が供給者に対して「支配的な影響力」を有する場合には、顧客は、供給者に対して有する不履行に起因する権利や救済手段を、DPF提供者に対しても行使することができるとされている。この「支配的な影響力」の判断基準が、ウーバー・テストの「決定的な影響力」概念における考慮要素を踏襲したものとなっていると分析する(*5)。
以上のカライスコス論考の分析からすると、ウーバー・テストが、DPF提供者が法的責任を負うべき場合(単なる仲介サービス提供者の地位を超え、サービスを自ら提供していると評価できる場合)を画する基準として機能する可能性がみえてくる。
3 我が国における適用
もっとも、実際にウーバー・テストを我が国のいくつかのビジネス・モデルに適用した場合、いくつかの課題も存在する。それは、基準としての精緻さに欠ける点である。
DPF提供者の代表例としては、例えばメルカリ社等のオンライン・フリーマーケット型(CtoC取引)のビジネス・モデルが挙げられる。メルカリ社のケースをウーバー・テストに適用した場合、どのような結論が得られるだろうか。
まず、遠隔地の個人同士が、特定の商品取引について、メルカリ社の仲介サービスを経由せずにマッチングする可能性は極めて低いから、①のサービス提供のための代替的手段はなかったと判断されそうである。
次に、②の決定的な影響力の有無については、メルカリ社は、(イ)個人の出品する商品について価格設定に関与しているわけではない。これは、メルカリ社の責任を否定する方向に判断される要素であろう。
他方で、(ロ)メルカリ社は、いわゆるエスクロー決済制を採用し、支払プロセス・システムを提供しているほか、(ハ)サービス利用者を管理し、不適切な商品・サービスの流通を禁止している(*6)。これらは、メルカリ社の責任を肯定する方向に作用する要素である。
では、これらをどのように総合評価すべきか。
仮に、②の(イ)の基準を満たさないことを理由に、メルカリ社が一切の契約責任を負わないとすると、基準としては精緻さに欠け、裁判規範としては機能しない。
ここで着目すべきは、ウーバー・テストを踏襲したELIモデル準則20条の「支配的な影響力」という基準である。次の要素が総合考慮される。
「支配的影響力」の基準
a)供給者と顧客との間の契約が、プラットフォームで提供されている設備のみを通じて締結されているか
b)DPF提供者が、供給者と顧客との間の締結後もなお、供給者の身元や契約に関する情報を保有しているか
c)DPF提供者が、顧客によって供給者に対して行われた支払いを保留することをDPF提供者にとって可能とする支払システムのみを用いているか
d)供給者と顧客との間の契約の条件が主にDPF提供者によって決定されているか
e)顧客によって支払われる代金がDPF提供者によって設定されているか
f)マーケティングが供給者ではなく、DPF提供者に焦点を当てているか
g)DPF提供者が、供給者の行動を監視し、法定の要求事項を超えて自己の基準への遵守を供給者に徹底させるか
このうち、b)の基準は、DPF提供者が保有する情報に着目する要素である。プラットフォームのおける取引で、顧客、供給者の情報を最も保有し、トラブル解決のためのノウハウを保有しているのはDPF提供者であるから、我が国の裁判においても、この要素が重視される可能性はある。
また、f)マーケティングの焦点がDPF提供者にあてられているかという基準は、顧客からみて誰を主体とした広告表示等がなされているかを考慮するものである。経産省の電子商取引の準則によると、DPF提供者が特定の販売業者に積極的に広告や広報に関与していたことが、契約当事者責任を肯定する要素とされていることからすると、我が国においても、この要素は一定考慮される可能性が高い。
これらの要素を加えたELIモデル準則の「支配的な影響力」基準における要素を総合考慮することで、より精緻に契約責任を負う場合について議論することができるだろう。
4 おわりに
 以上のように、ウーバー・テスト及びそれを踏襲したELIモデル準則の基準は、DPF提供者が単なる仲介者を超えて責任を負う場合を画する基準として機能する可能性を示唆しており、我が国におけるDPF提供者の契約責任を論ずる際にも、参考とされている。
我が国におけるDPF消費者保護法は、DPF提供者による自主ルールを軸として、基本的に努力義務規定やペナルティのない情報提供開示規定を設けることにより、取引の適正化を目指している。他方で、法的義務を伴う契約責任等の導入については、見送られた経緯がある。今後、裁判等でDPF提供者が契約責任を負うべきと主張された場合、本稿で論じたような要素を総合考慮して、その責任の有無が判断される可能性がある。
DPF提供者としては、どのような要素が責任を肯定するものであるかを把握しておくことが重要である。
*1例えば、いわゆるヤフーオークション事件に関する裁判例(名古屋地判平成20年3月28日判時2029号89頁、名古屋高判平成20年11月11日裁判所ウェブサイト)は、一般論として一定の注意義務を負うことを認めている。
*2中田邦博「デジタル・プラットフォーム取引の法的構造と消費者保護」消費者法研究第10号、2021年9月、67頁。
*3カライスコス アントニオス「オンライン・プラットフォーム事業者のビジネス・モデルの画定と民事責任」消費者法研究第10号、2021年9月、85頁。
*4モデル準則は、EUの公式立法ではなく、法的拘束力を有しないソフト・ローではあるものの、加盟国の法制に強い影響を与えている。
*5さらに、カライスコス論考は、「決定的な影響力」概念は、デジタル・サービス法提案にも影響を与えていると分析するが、紙面の都合上、ここでは省略する。
*6オンラインマーケットプレイス協議会のウェブサイト(https://www.onlinemarketplace.jp/initiatives/initiatives_detail08/)に掲載された同社の取組参照。同社が不適切と判断した商品は、禁止出品物、禁止行為として取引キャンセル、商品削除等の措置がとられる。