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ウェブサイト広告と「おとり広告」規制

更新日:2022.09.09
弁護士
増田朋記
本稿で取り扱う問題の要旨
実際には存在しない商品を広告に掲げ、一般消費者を誘引すれば、「おとり広告」として景品表示法に違反することとなる。

では、商品自体は実際に存在したものの、予想に反して商品が早々に売り切れてしまい、販売することができなくなってしまったという場合にも「おとり広告」に該当するだろうか。

また、当該広告の媒体がウェブサイトであることは影響するだろうか。
解説
1 「おとり広告」の規制とは
 景品表示法は、消費者に誤認を生じさせるおそれがある不当な表示を規制している法律である。
 具体的には、以下の表示について禁止している。
ⅰ)商品・サービスの内容について、実際のものよりも良いものだと示す優良誤認表示
(景品表示法5条1号)
 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
ⅱ)商品・サービスの取引条件について、実際よりもお得であると示す有利誤認表示
(景品表示法5条2号)
 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
ⅲ)その他、消費者に誤認されるおそれがある表示として内閣総理大臣が指定する表示
(景品表示法5条3号)
 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
 「おとり広告」とは、上記のうちの内閣総理大臣が指定する表示の中に含まれるものであり、下記の場合が対象となる(「おとり広告に関する表示」(平成5年公正取引委員会告示第17号))。

① 取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合
② 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合
③ 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合
④ 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合

 「おとり広告に関する表示」に規定されている不当表示を行っていると認められた場合、当該事業者は、措置命令などの措置を受けることとなる。
2 おとり広告規制の運用について
 そもそも販売する意図が全くない商品について、広告のみに掲げ、一般消費者を誘引することは文字通りの「おとり広告」であり、これが景品表示法に違反することとなることは言うまでもない。
 では、本来は販売しようとしていた商品が、予想に反して売れ行きが良く、想定期間よりも早々に売り切れてしまったという場合はどうであろうか。

 「おとり広告に関する表示」については別途運用基準(平成5年4月28日事務局長通達第6号)が定められているが、その中では「事業者は、広告、ビラ等において広く消費者に対し取引の申出をした広告商品等については、消費者の需要に自らの申出どおり対応することが必要であり、また、何らかの事情により取引に応じることについて制約がある場合には、広告、ビラ等においてその旨を明瞭に表示することが必要である」とされている。

 このような観点からすれば、予想に反して早々に売り切れてしまったという場合も、消費者の需要に自らの申出どおり対応することができないのであるから、おとり広告に該当するようにも思われる。

 しかし、その広告を行った時点で商品を準備し、消費者に実際に販売することを意図していたのであれば、上記の告示において示される「実際には取引に応じることができない場合」や「実際には取引する意思がない場合」には該当しないと考えられる。

 この様なケースで留意を要するのは、準備された供給量が、予想販売数量を大きく下回っているような場合である。上記運用基準では、広告商品等の販売数量が予想購買数量の半数にも満たない場合は、「供給量が著しく限定されている」場合(上記ⅱ)に該当するものとしており、実際の販売数量が当該広告、ビラ等に商品名等を特定した上で明瞭に記載されていなければ明瞭に記載されていなければ「おとり広告」に該当することとなる(単に、販売数量が限定されている旨のみが記載されているだけでは足りない。)。
3 ウェブサイトにおける「おとり広告」
 ウェブサイトにおける広告は、インターネット上で消費者が閲覧可能な状況が持続し、かつ、これを削除するなどの対応を取ることがチラシ広告等に比して容易である。
 このような持続性・即時対応可能性は、広告表示の規制との関係で一定の影響を生じさせる。

 上記のとおり、広告表示を行った後に、該当商品が予想に反して早々に売り切れてしまったというような場合には、その広告を行った時点では、商品を準備し、消費者に実際に販売することを意図していたと解されれば、おとり表示の告示において示される「実際には取引に応じることができない場合」や「実際には取引する意思がない場合」に当然には該当しないと考えられる。

 しかし、ウェブサイトの持続性・即時対応可能性を考慮すると、実際の販売が困難であると判明した時点で、当該広告表示を削除するなどの措置を取ることなく放置すれば、そのようなウェブサイトの表示は、「実際には取引に応じることができない場合」や「実際には取引する意思がない場合」にもかかわらず行われた広告表示であると解される可能性がある。

 もちろんウェブサイト以外の媒体であっても、基本的には、商品を実際に販売できないことが見込まれた時点で、そのような商品についての広告をとりやめる措置を取るべきものと考えられるが、ウェブサイトにおける広告においてはその対応可能性が高い分、より一層慎重な対応が求められることになろう。

 近時、おとり広告に該当するものとして行政処分を受けた回転寿司チェーン店では、キャンペーン期間の途上で、在庫が実施期間の途中に足りなくなる可能性があると判断したために、該当する料理の提供を停止することを決定し、店舗の店長等に対しその旨周知しておきながら、広告表示については何らの措置も取られていなかったようである。このような対応はコンプライアンス上の意識が十分でなかったと言わざるをえないであろう。

 ウェブサイトにおける広告は極めて有用なツールであるが、だからこそ、目玉として広告して消費者を誘引する以上、「売り切れ御免」では不十分であるという意識をもって、意に反して違法状態を生じさせないように留意しなければならない。