本記事の要約
- 電子商取引の発展により、それまでは日本国内の事業者を通じて日本国内に流入していた模倣品が、海外事業者から直接日本国内の個人へ直接販売されるケースが増加
- 模倣品が海外事業者から直接日本国内の個人へ販売される場合、輸入の主体が個人であることから「業として」したものとはいえず、商標権・意匠権侵害に問うことが難しかった。
- 令和3年の商標法・意匠法改正により、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為が「輸入」に該当することになり、商標権・意匠権侵害を問いやすくなった。
改正の概要
経済がグローバルしたことにより、多くの日本企業が、海外で自社製品を製造販売することが多くなりました。グローバルなサプライチェーンを通じて、品質が高いとされる日本企業の製品が模倣され、中国や東南アジアで販売されるだけでなく、安価な形で日本に流入することが後を絶ちません。加えて、近年の電子商取引の発展により、海外事業者が直接日本国内の個人へ模倣品を販売することが増加しました。
一方で、個人使用目的による模倣品輸入は、輸入の主体が個人であり、特許権、商標権、意匠権などの産業財産権侵害に直ちに当たらないと考えられてきたため、模倣品による被害の防止や回復が困難でした。
令和3年の商標法及び意匠法の改正により、増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応して、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為が商標法・意匠法上の「輸入」行為に該当することになり、商標権及び意匠権侵害を問いやすくなりました。
一方で、個人使用目的による模倣品輸入は、輸入の主体が個人であり、特許権、商標権、意匠権などの産業財産権侵害に直ちに当たらないと考えられてきたため、模倣品による被害の防止や回復が困難でした。
令和3年の商標法及び意匠法の改正により、増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応して、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為が商標法・意匠法上の「輸入」行為に該当することになり、商標権及び意匠権侵害を問いやすくなりました。
改正のポイント
商標権侵害・意匠権侵害とは?
●商標権侵害
商標権は、特許庁に商標登録を出願し、審査の結果、登録が認められると発生する権利です(商標法18条1項)。商標権者は、指定商品等について登録「商標」を独占的に「使用」することができ(商標法25条)、第三者が商標権者に無断で指定商品等に登録「商標」又は類似の商標を「使用」することは、商標権侵害となります。
「商標」の定義は、商標法2条1項各号に規定されており、「業として」商品を生産等する者がその商品について使用する標章をいうため(商標法2条1項各号)、商標権侵害となるのは、第三者が、「業として」登録商標等を「使用」(商標法2条3項各号)した場合です。
●意匠権侵害
意匠権は、特許庁に意匠登録を出願し、審査の結果、登録が認められると発生する権利です(意匠法20条1項)。意匠権者は、「業として」登録意匠及びこれに類似する意匠を独占的に実施することができます(意匠法23条)。そのため、第三者が意匠権者に無断で登録意匠を「業として」実施した場合、意匠権侵害となります。ここでいう「実施」は、意匠法2条2項各号に定義される行為をいいます。
商標権は、特許庁に商標登録を出願し、審査の結果、登録が認められると発生する権利です(商標法18条1項)。商標権者は、指定商品等について登録「商標」を独占的に「使用」することができ(商標法25条)、第三者が商標権者に無断で指定商品等に登録「商標」又は類似の商標を「使用」することは、商標権侵害となります。
「商標」の定義は、商標法2条1項各号に規定されており、「業として」商品を生産等する者がその商品について使用する標章をいうため(商標法2条1項各号)、商標権侵害となるのは、第三者が、「業として」登録商標等を「使用」(商標法2条3項各号)した場合です。
●意匠権侵害
意匠権は、特許庁に意匠登録を出願し、審査の結果、登録が認められると発生する権利です(意匠法20条1項)。意匠権者は、「業として」登録意匠及びこれに類似する意匠を独占的に実施することができます(意匠法23条)。そのため、第三者が意匠権者に無断で登録意匠を「業として」実施した場合、意匠権侵害となります。ここでいう「実施」は、意匠法2条2項各号に定義される行為をいいます。
個人による模倣品輸入は「業として」した行為に当たらない?
海外事業者が模倣品を日本国内に持ち込む行為が商標権又は意匠権侵害に当たれば、差止請求などの民事的措置や税関における輸入差止めが可能となります。商標権や意匠権の侵害が認められるのは、上記のとおり、「業として」登録商標が使用された場合や、登録意匠が「業として」実施された場合などです。したがって、海外事業者からの模倣品の流入が「業として」行われたものでなければ、商標権侵害にも意匠権侵害にも問うことができません。
そして、「業として」という概念は、反復継続して行うことを想定しているため、海外事業者からの模倣品流入でも、個人宛の輸入であれば、「業として」した輸入に当たらないと考えられてきました。そのため、海外事業者から個人が模倣品を輸入する場合、商標権侵害や意匠権侵害に当たることの立証は困難であり、この点を奇貨としてか、本来は「業として」の輸入であるにもかかわらず、個人使用目的での輸入と仮装して模倣品が流入することさえありました。
そして、「業として」という概念は、反復継続して行うことを想定しているため、海外事業者からの模倣品流入でも、個人宛の輸入であれば、「業として」した輸入に当たらないと考えられてきました。そのため、海外事業者から個人が模倣品を輸入する場合、商標権侵害や意匠権侵害に当たることの立証は困難であり、この点を奇貨としてか、本来は「業として」の輸入であるにもかかわらず、個人使用目的での輸入と仮装して模倣品が流入することさえありました。
改正:「輸入」概念の見直し
このような状況を背景に、令和3年の商標法及び意匠法の改正では、以下のとおり、海外事業者が模倣品を郵送等により日本国内に持ち込む行為が「輸入」概念に含まれることになりました。
●商標法
商標法2条7項が新設され、商標法における「輸入」行為に、「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明示されました。
●意匠法
意匠法における「輸入」行為を定める意匠法2条2項1号において、「輸入」に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明示されました。
商標法2条7項が新設され、商標法における「輸入」行為に、「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明示されました。
●意匠法
意匠法における「輸入」行為を定める意匠法2条2項1号において、「輸入」に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明示されました。
この改正によって、日本国内にいる個人の輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、海外事業者による模倣品の持込行為は、登録商標の使用行為や登録意匠の実施行為に該当することになり、商標権侵害や意匠権侵害を問うことが可能になりました。
なお、今回の改正では、特許権や実用新案権における同様の改正は行われませんでした。これは、特許権や実用新案権については、商標権侵害や意匠権侵害と異なり、侵害の有無の判断がより困難であること等が考慮されたためです。
なお、今回の改正では、特許権や実用新案権における同様の改正は行われませんでした。これは、特許権や実用新案権については、商標権侵害や意匠権侵害と異なり、侵害の有無の判断がより困難であること等が考慮されたためです。
模倣品対策実務への影響
国内企業が、自社製品の模倣品が輸入されていることに気づいた場合に採り得る手段には、以下のとおりです。
①不正競争防止法に基づく請求や知的財産権侵害に基づく差止請求等の民事的措置
②税関当局を含む行政機関による行政摘発
③刑事告訴という刑事的措置
どの措置を講じるべきかは、模倣品が国内に既に入ってきているかどうか、目標(販売停止か、損害賠償か等)をどのように設定するか、産業財産権の取得状況、模倣品の特徴(デッドコピーか、あるいは、模倣品であることが分かるようなものに過ぎないのか等)、模倣品を放置することにより予想される影響(売上減少、レピュテーションリスク等)など、様々な事情を踏まえて判断されます。
このうち、民事的措置については、侵害者の特定・証拠収集~警告書送付~差止め等のための裁判手続まで、相当の時間を要することに加え、弁護士費用等の手続費用も必要になります。他方、裁判所に知的財産権侵害を認めさせるための立証のハードルが相対的に高いだけでなく、仮に立証できたとしても、その損害額が必ずしも大きくなるとは限らず、時間的・経済的コストとの関係で費用倒れに終わる可能性があります。
知的財産権者は、民亊的措置のほか、税関長に対し、自己の知的財産権を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合は認定手続(関税法69条の12)を執るべきことを申し立てることができます(関税法69条の13)。この申立ての受理後は、多くの場合、輸入者側が知的財産権侵害該当性を争わない限り侵害該当性が認定されるという簡易な手続により進められます。そのため、民事的措置と比べ、侵害認定に時間と費用がかからないため、日本国内に入ってくる模倣品に対して行う措置として有用です。
上記改正前は、個人による模倣品輸入は、「業として」に該当しないと一般に考えられていたため、輸入者側から「個人的な使用のための輸入」であるとの反論がなされれば、税関において侵害物品該当性の判断が困難でした。しかし、今回の改正により、日本国内にいる個人輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、商標権侵害や意匠権の侵害品(関税法69条の11第1項9号)として輸入を差し止めることが可能となります。今後、インターネット取引はさらに拡大していくと考えられ、税関に輸入差止めを求めていくことが模倣品対策の有力な一手になるかもしれません。
①不正競争防止法に基づく請求や知的財産権侵害に基づく差止請求等の民事的措置
②税関当局を含む行政機関による行政摘発
③刑事告訴という刑事的措置
どの措置を講じるべきかは、模倣品が国内に既に入ってきているかどうか、目標(販売停止か、損害賠償か等)をどのように設定するか、産業財産権の取得状況、模倣品の特徴(デッドコピーか、あるいは、模倣品であることが分かるようなものに過ぎないのか等)、模倣品を放置することにより予想される影響(売上減少、レピュテーションリスク等)など、様々な事情を踏まえて判断されます。
このうち、民事的措置については、侵害者の特定・証拠収集~警告書送付~差止め等のための裁判手続まで、相当の時間を要することに加え、弁護士費用等の手続費用も必要になります。他方、裁判所に知的財産権侵害を認めさせるための立証のハードルが相対的に高いだけでなく、仮に立証できたとしても、その損害額が必ずしも大きくなるとは限らず、時間的・経済的コストとの関係で費用倒れに終わる可能性があります。
知的財産権者は、民亊的措置のほか、税関長に対し、自己の知的財産権を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合は認定手続(関税法69条の12)を執るべきことを申し立てることができます(関税法69条の13)。この申立ての受理後は、多くの場合、輸入者側が知的財産権侵害該当性を争わない限り侵害該当性が認定されるという簡易な手続により進められます。そのため、民事的措置と比べ、侵害認定に時間と費用がかからないため、日本国内に入ってくる模倣品に対して行う措置として有用です。
上記改正前は、個人による模倣品輸入は、「業として」に該当しないと一般に考えられていたため、輸入者側から「個人的な使用のための輸入」であるとの反論がなされれば、税関において侵害物品該当性の判断が困難でした。しかし、今回の改正により、日本国内にいる個人輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、商標権侵害や意匠権の侵害品(関税法69条の11第1項9号)として輸入を差し止めることが可能となります。今後、インターネット取引はさらに拡大していくと考えられ、税関に輸入差止めを求めていくことが模倣品対策の有力な一手になるかもしれません。