OUR VIEWS

インフルエンサーマーケティングについての実務的留意点

更新日:2024.06.13
弁護士
増田朋記
第1  インフルエンサーマーケティングにおける商業的意図の曖昧性
インフルエンサーとは
インフルエンサーとは、InstagramやYouTubeといったソーシャルメディアを利用し、大きな影響力を持つ人物である。
そして、インフルエンサーマーケティングは、事業者が、このような影響力のある人物に自社の製品やサービスなどを紹介してもらうことによって、消費者の認知度や購買意欲を高めるというマーケティング手法のことである。
このような手法は、ソーシャルメディアの普及と併せて、多くの事業者によって取り入れられるようになっている。 
インフルエンサーマーケティングの特質
インフルエンサーマーケティングの特質としては、従来のマーケティング手法よりも狙った層をターゲットにすることができる、オンライン販売に馴染むなど、様々なものが挙げられるが、本稿では、その中でも商業的意図の曖昧性の点に着目したい。

インフルエンサーといっても、フォロワー数が100万人を超えるメガインフルエンサーと呼ばれるものや、フォロワー数が1万人を超えないナノインフルエンサーなど、発信の規模も異なっているし、取り扱う内容も人によって多種多様である。

もっとも、これらに共通していえるのは、テレビコマーシャルのように限られた芸能人等が登場するツールではなく、誰でもが発信可能なソーシャルメディアというツールを利用し、発信力を高めているという点である。 
そして誰もが発信可能であるということは、閲覧している側からみれば、その発信内容が、当該インフルエンサーの私的な評価・感想を示すものか、商業的な意図を背景とするものかが曖昧でわかりにくいということに繋がる。 

昨今は、インフルエンサーマーケティングが主流なマーケティング手法の一つとなり、一般消費者もかつてのように単なる口コミとの認識を持たなくなってきているとは考えられるが、上記のような商業的意図の曖昧性による広告効果は依然として強大なものとなっている。
第2  景品表示法によるステルスマーケティング規制
不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」という。)は、不当な表示による顧客の誘引を防止するための規制を定めている。
具体的には、商品やサービスの内容について実際のものよりも著しく優良であると誤認させる優良誤認表示や、商品やサービスの内容について実際のものよりも著しく有利であると誤認される有利誤認表示を禁止し、さらに、内閣総理大臣が告示によって指定する表示を不当な表示として禁止している(景品表示法第5条)。 

そして、令和5年3月28日の内閣府告示第19号により、内閣総理大臣が告示によって指定する表示の中に、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が付け加えられた。 

同日に決定された「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(以下、「運用基準」という。)において、「一般消費者は、事業者の表示であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れる一方、実際には事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認する場合、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考えないことになり、この点において、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある。」と示されるとおり、内閣府告示第19号による指定は、実際には事業者の表示であるのにそれを認識できないような表示、すなわち、ステルスマーケティングを規制したものである。 

この新たな規制は令和5年10月1日から施行されている。
第3  ステルスマーケティング規制とインフルエンサーマーケティングとの関係
インフルエンサーマーケティング≠ステルスマーケティング?
上記の新たな規制は、あくまでステルスマーケティングを規制したものであり、インフルエンサーマーケティングを一律に禁止したものではない。
しかし、既にみたとおり、インフルエンサーマーケティングは、商業的意図の曖昧性をその重要な特質としており、これによる広告力の強大さは、消費者の自由な意思による選択の阻害と裏腹のものである。
この点が十分に留意されないままにインフルエンサーによる表示がなされれば、当該表示はステルスマーケティングに該当し、規制に違反することとなってしまう。 

では、いかなる場合に、インフルエンサーマーケティングがステルスマーケティングに該当し、禁止されることになるのであろうか。
「事業者の表示」の該当性
内閣府告示第19号が示す「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」であるとされる。 

すなわち、ここでは、対象となる表示が、「事業者の表示」であることが規制の前提とされているから、インフルエンサーが事業者とは全く関わりなく、自己の評価や感想を表示したとしても、規制の対象とはなり得ない。 
もっとも、運用基準は「外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合である。」としており、事業者が表示内容の決定に関与していれば、外形上はインフルエンサー等が行う第三者の表示であっても、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」に該当するものとしている。 

そこで、インフルエンサーマーケティングに関しては、事業者とインフルエンサーとの間に、どこまでの関係があれば、インフルエンサーの行った表示が「事業者の表示」に該当することとなるのかという点が問題となる。 
この点について、まず、運用基準は、「事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合」を、事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となる例として掲げている。 
したがって、事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示しているような場合は、「事業者の表示」の該当性は明白である。 

では、事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的には依頼・指示してない場合はどうであろうか。
運用基準は「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となる。」とし、客観的な状況によって認められる関係性をもとに判断することとしている。
事業者の表示とされる場合の具体例
  • (ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。
  • (イ) 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務について表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり(例えば、事業者が第三者との取引には明示的に言及しないものの、当該第三者以外との取引の内容に言及することによって、遠回しに当該第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させること。)、言動から推認させたりする(例えば、事業者が第三者に対してSNSへの投稿を明示的に依頼しないものの、当該第三者が投稿すれば自らとの今後の取引の実現可能性に言及すること。)などの結果として、当該第三者が当該事業者の商品又は役務についての表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。 
つまり、表示内容についての明示的な依頼・指示はないものの、第三者に何らかの便益を提供することで、事業者の意に沿った表示を行わせたとみられる客観的な関係があるケースにおいては「事業者の表示」に該当するものと判断されることになる。 
インフルエンサーマーケティングは、事業者が自社の製品やサービスの認知度や購買意欲を高めることを目的としてとられるマーケティング手法であるから、多くの場合にこのようなケースに該当することになろう。 

なお、運用基準では、「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合」等を、事業者の表示とならない場合の例として掲げており、いわゆるギフティングと呼ばれるような無償提供行為があっても規制の対象とならない場合があるような記載となっているが、事業者から商品やサービスの無償提供を受けておきながら「第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う」ことが客観的に示されるというケースはかなり限定的な場面であると考えられる。
事業者の表示であることを判別することが困難か否か 
当該表示が「事業者の表示」に該当する場合、次に問題となるのは、それが「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」に該当するか否かである。 

この点については、運用基準は、「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになる。」としている。 
当該表示において、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言を示さず、事業者の表示であることが一切記載されていない場合には、これに該当することは明らかである。 

他方で、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言を記載していれば足りるかというと、そうではない。
運用基準に「ただし、これらの文言を使用していたとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められない場合もある。」と明示されているとおり、事業者の表示であることの明瞭性が必要となる。
明瞭性を欠くとされる場合の具体例
  • ア 事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合。
  • イ 文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。あるいは、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています。」と記載しているにもかかわらず、文中に「広告」と記載し、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。
  • ウ 動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画においては、例えば、冒頭以外(動画の中間、末尾)にのみ同表示をするなど、一般消費者が認識しにくい箇所のみに表示を行う場合も含む。)。
  • エ 一般消費者が事業者の表示であることを認識できない文言を使用する場合。
  • オ 事業者の表示であることを一般消費者が視認しにくい表示の末尾の位置に表示する場合。
  • カ 事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示した結果、一般消費者が認識しにくい表示となった場合。
  • キ 事業者の表示である旨を、文章で表示しているものの、一般消費者が認識しにくいような表示(例えば、長文による表示、周囲の文字の大きさよりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した結果、一般消費者が認識しにくい表示)となる場合。
  • ク 事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(例えば、SNSの投稿において、大量のハッシュタグ(SNSにおいて特定の話題を示すための記号をいう。「#」が用いられる。)を付した文章の記載の中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合)。 
ハッシュタグについては、従前より、企業からの便益の提供などを意味する便益タグとして「#プロモーション」、「#PR」、「#宣伝」、「#広告」などが用いられる例が見られていたが、これを使用することで直ちに規制を免れることができるとの理解は誤っており、文章全体の中で、「事業者の表示」であることが明瞭となっているかという意識が必要となる。
インフルエンサーマーケティングを利用しようとする事業者が留意すべき点
インフルエンサーマーケティングを利用しようとする事業者においては、とりわけ、いわゆる発信者の自主的な評価判断のもとに行われる口コミとの違いを意識することが求められる。 
発信者の自主的な評価判断のもとに行われる口コミであれば、上記のとおり「事業者の表示」には当たらないから、ステルスマーケティングの規制の対象とはならず、そもそも広告表示の問題とはならない。 
他方で、インフルエンサーマーケティングは、一定の領域において口コミによるマーケティングと重なり合うものであるが、基本的には事業者が一定の働きかけを行ってインフルエンサーに自社の商品やサービスを紹介してもらおうとするものであるから、事業者自身の表示として監督と責任が求められるのである。 

ステルスマーケティング規制については上記のとおりであるが、景品表示法においては、表示の内容を他の事業者の決定に委ねた事業者も規制の対象となる表示主体とされるから、自社の商品やサービスの紹介をインフルエンサーに依頼しつつ、その内容を委ねた場合に、インフルエンサーが行った表示に優良誤認表示や有利誤認表示があれば、その責任を依頼した事業者が負わなければならなくなるということにも留意しなければならない。