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Eコマースと知的財産~著作権~

更新日:2023.04.29
弁護士   若竹宏諭
Eコマースの有用性と利用の拡大
インターネットを通じた情報発信は、ビジネス上も利用しやすい発信方法の一つです。ウィズコロナ・アフターコロナの時代には、日本国内だけでなく、世界に向けた情報発信がさらに活発になると予想されます。今後、インターネットを通じた情報発信、なかでも、直接消費者に対して、自社の製品やサービスを紹介しアピールできるEコマースを検討されている事業者も多いのではないでしょうか。本稿では、Eコマースビジネス関連の法律問題の内、知的財産、とりわけECサイトと著作権に関して、いくつかのポイントをご紹介したいと思います。
著作権が関わる場面と対応のポイント
EC事業者の視点から、新たにECサイトを開設し運用していく際の著作権にまつわる留意点を具体的にご紹介します。
ウェブサイト自体の著作権
Eコマースのためのウェブサイトを開設する際にも著作権が関わります。
EC事業者がウェブサイト制作業務をウェブサイト制作業者に外注する場合、ウェブサイト制作業者が作成するウェブサイトは、EC事業者の意向を汲んで、外注先が創意工夫を凝らし、様々なコンテンツを載せて作成するため、通常、著作物(編集著作物(著作権法12条1項))に当たると考えられます。そのため、ウェブサイトに関する著作権をウェブサイト制作業者に残すのか、EC事業者に移転させるのかの検討が必要になります。ウェブサイト制作に関する契約においては、著作権の帰属に関するルールが設けられますので、契約内容への注意が必要です。
まず、EC事業者がウェブサイトを利用していくにあたっては、ウェブサイト制作業者から著作権を譲り受けるか、あるいは、ウェブサイトの利用に関する利用許諾を受ける必要があります。これらの処理のために、ウェブサイト制作に関する契約において、ウェブサイトの著作権の譲渡や利用許諾に関するルールが定められます。また、ウェブサイトの更新は、著作者が保有する著作者人格権の一つである同一性保持権に抵触する可能性があります。この著作者人格権は著作者に発生する権利ですが、上記の著作権とは異なり、譲渡することができません(著作権法59条)。EC事業者が自らウェブサイトの更新を行うことを予定している場合には、ウェブサイト制作業者に著作者人格権を行使しないことを約束してもらうことが安心です。さらに、著作権の譲渡、著作者人格権の不行使について、制作業務の対価に含まれているのか、あるいは別途対価を支払うのか等も明確にしておく必要があります。
ウェブサイト制作時に用いる動画・写真・イラスト等の著作権
ウェブサイトのデザインとして、EC事業者が作成したものではない動画、写真、イラスト等を利用する場合、これらを作成した著作者が持つ著作権の処理をすることが必要です。
ウェブサイト制作業者が作成した動画等であれば、上記ウェブサイトの著作権と併せてウェブサイト内で用いられる個々の動画等についても著作権の譲渡を受けるなどの取決めをすることで対応できます。一方、ウェブサイト制作業者がどこかから入手してきた動画等(例えば、鴨川などの風景を対象にした写真やイラスト)を用いる可能性もあります。その場合、当該動画等の利用がそれを作成した第三者の著作権を侵害している可能性があり、当該第三者から権利侵害に基づく何らかの請求を受けるおそれがあります。そして、矢面に立たされるのはウェブサイトを利用しているEC事業者です。この紛争リスクを回避するためにも、ウェブサイトに利用される動画等について第三者作成のものを用いる可能性がある場合には、あらかじめウェブサイト制作業者との契約において、第三者との関係での著作権処理を義務付けたり、第三者の著作権侵害がないことを保証させるなどし、その違反があった場合の損害賠償に関するルールを定めておくなどの対応が必要になります。
なお、京都では、京都らしさを出すためにウェブサイト上に京都の寺社仏閣の写真を掲載することもあるかと思います。寺社仏閣それ自体に著作権が残っていることはまずないですが、寺社仏閣によっては、境内のある建築物の写真を商用的に利用することを禁止するルールを独自に設けている可能性がありますので、無用なトラブルを避けるためにも、建築物を被写体とする写真利用等に関するルールは事前に確認しておくことが安心です。
自社商品の紹介画像に関する著作権
ウェブサイトが完成し、EC事業者が自社で当該ウェブサイトを運用していく過程では、例えば自社商品に関する画像(写真やイラスト)等を追加することが考えられ、フォトグラファーやイラストレーターなどのクリエイターに写真撮影やイラスト制作を依頼することもあると思います。
イラストについて著作権が発生することは想像しやすいかと思いますが、単に商品を撮影する写真であっても、その撮影時の工夫だけでなく、撮影後のレタッチの段階で撮影者の個性が発揮されるため、広く著作権が発生すると考えられます。したがって、ウェブサイトのコンテンツ拡充に当たり、新たな写真やイラスト等を用いる場合には、当該クリエイターとの契約において著作権処理を施す必要があります。具体的には、クリエイターから、写真等の著作権を譲り受けるか、あるいは、写真等について想定される利用方法について利用許諾を得ておくことが必要です。なお、著作者人格権についての対応や著作権譲受・利用許諾必要になることはウェブサイト自体の著作権の場合と同様です。
他社商品等に関する著作権
自社商品だけでなく、他社から委託を受けて自社が製造したものではない商品を販売することもあるかと思います。その際、他社から提供を受けた商品画像について、他社が著作権に関する権利処理を行っておらず、その作成者に著作権が残存している可能性があります。それを知らずにEC事業者が当該商品画像を利用した場合、当該作成者との間でトラブルになるおそれがあります。そのため、他社から商品画像等の素材を受領し、それを利用する場合には、その素材に関する著作権に問題がないかについて留意する必要があります。
なお、商品が第三者の制作による絵画等の美術作品(なお、例えば焼物でも実用的な皿などは著作物には当たりません。芸術性・デザイン性が高い実用品については著作権法上の保護を受けられるかどうかの問題(応用美術の問題)があります。)や写真作品である場合には、商品自体に著作権が発生しています。そのため、当該商品を撮影した写真をウェブサイトにアップロードする行為は、著作権法上の複製権、公衆送信権の侵害に当たります。もっとも、著作権法上、販売目的でサムネイルとして商品画像を利用することについては、画素数に関する一定の条件を満たせば、著作権侵害には当たりません(著作権法47条の2)。
顧客との関係
ウェブサイトが商品のレビューを投稿できるつくりになっている場合があります。顧客が投稿したレビューには当該顧客に著作権が発生するので、EC事業者において、顧客が投稿したレビュー内容を利用する可能性がある場合には、利用規約等で、EC事業者によるレビュー利用を顧客が許諾する旨の規定を設けておくことが考えられます。また、レビュー内容として、画像を投稿することができる場合、顧客が第三者の著作物を利用する場合、当該第三者との間で著作権に係る権利処理を行うべきことを規定することもあります。そのほか、ウェブサイトに関するEC事業者等の著作権について、ウェブサイトを利用する顧客が何ら権利を取得するものではないことを注意的に規定することもあります。
おわりに
Eコマースに関連する著作権問題について概観しました。すべてを網羅できているわけではありませんが、EC事業検討時のご参考になれば幸いです。
なお、以上は一般論です。各事業者が実際に検討されるウェブサイトの内容、商品やサービスの内容等の具体的なビジネスの内容に応じて、著作権に関してどのような権利処理が必要になるかは個別具体的に検討していく必要があることにご留意いただければと思います。