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電子契約についてのQ&A 2

更新日:2023.04.05
弁護士
北村幸裕
Q1.弊社は、運送事業を営む会社ですが、このたび新たな顧客との間で、大口の運送契約を締結することになりました。そこで、弊社としては、これまで同様、運送契約書を締結しようとしたのですが、取引先から、契約にあたって、紙の契約書を作成するのではなく、電子契約で締結したいとの提案がありました。電子契約には、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
A1.メリットとしては、①業務の効率化、②コスト削減、③コンプライアンスの強化といったものが挙げられます。一方、デメリットとしては、①貴社における社内調整の困難さ、②相手担当者の契約締結権限の有無を確認するのが困難であるといったことが考えられます。
【解説】
1 メリットについて
(1)紙を用いた契約書の場合
 紙の契約書を締結する場合、合意内容を条項化した契約書を印刷して製本する必要がある。これには,紙代やインク代,当該作業を行う者の人件費等を要する。
 その後,製本された契約書に,双方当事者が,割印等含めて必要な箇所に記名・押印を行い,契約書を完成させる。この際,当事者が現実に立ち会って締結するのであれば,契約権限を有するものが,日時場所を調整する必要がある。一方,郵便にて契約書を取り交わすのであれば,相応の時間が必要になる。
 そして,完成した契約書は,物理的に保管しなければならず,秘密性の高い内容であれば,保管方法にも細心の注意を払わなければならない。
 以上のとおり,紙の契約書を締結する場合には,一定の手間・時間及び費用がかかる。
(2)業務の効率化
 ところが,電子契約の場合,電子データのやり取りによって契約締結が可能であることから、契約書の印刷,製本等の作業は不要となるし,即時の締結も可能であることから,契約締結までの時間を短縮化することが可能である。
 また,電子データであることから,物理的な保管場所の確保は不要である。
 更に,契約内容を電子データで管理できることから,契約内容を,単語検索や社内の管理ソフト等との連携が可能となる。そのため,これらを用いることで契約内容の確認・管理が容易である。
 その他、昨今の社会情勢下で利用が拡大しているリモートワークでの対応も容易である。
 このように,電子契約では,業務の効率化が可能となる。
(3)コスト削減
 電子契約の場合、印刷に要する紙代、インク代は不要である。また,契約書の作成や取り交わしに要する人件費の削減も可能であるし,郵便にて契約書を取り交わす際に要する郵便費用等が節約できる。
 また、契約書が電子データであるため、紙の契約書よりも、保管、管理が容易であり、これらの費用も削減できる。
 そして、最も大きなコスト削減として、印紙税が不要となる。この点は後述する。
(3)コンプライアンスの強化
 電子契約の場合、電子データであることから、データへのアクセス権限を限定することによって、紙の契約書に比べて、契約の取扱者や管理者を限定することが容易である。また、電子契約は、適切な管理をしている場合、改ざんが困難である。
 このことから、電子契約の場合、紙の契約書を締結する場合に比べ、コンプライアンスを強化することが可能である。

2 デメリットについて
(1)調整の困難さ
 一方、デメリットとして考えられるのは、まずは、締結に至るまでの調整の困難さである。
 電子契約は、契約当事者のいずれもが、紙の契約書の締結とは異なる方法を採用する必要がある。
 そのため、まずは,自社において,電子契約締結のための業務フローを整える必要がある。これまでの業務フロートとは大きく異なることから,新たに業務フロー作成することは大変な手間となる。ただし,一旦業務フローが完成すれば,以降はむしろ効率化が図れると思われる。
 一方,取引の相手方については,相手方が電子契約に適した業務フローを有しているとは限らず、常に確認・調整が必要となり,この点の負担は大きい。
(2)権限の有無等の問題
 紙の契約の場合、契約締結するものが締結権限を有しているかどうかについては、印鑑等を用いて判別するのが一般的であったが,電子契約の場合、電子データのやり取りのみであるから、担当者に契約締結権限があるかどうかわからない。
 また,新規取引を締結する場合には,そもそも相手方の名前を騙った第三者が不当に利益を得ようとしている可能性もある。
 そのため、紙の契約に比べて、契約締結権限の有無については、確認を慎重にすべきといえる。特に新規契約を締結する場合には,一層慎重に行わなければならない。
(3)電子契約が許されない場合
 なお、設問とは直接関係ないが、電子契約が許されない場合がある。電子契約を締結したくてもできないという点ではデメリットといえる。
Q2.電子契約のメリットの一つに、印紙税が不要になることが挙げられていましたが、電子契約の場合には、契約書に収入印紙を貼り付ける必要はないのですか。
A2.電子契約は、現時点で、印紙税法の課税文書にあたらないと考えられています。そのため、電子契約は非課税であり、収入印紙を貼り付ける必要はありません。
【解説】
 印紙税を納める義務がある文書について、印紙税法3条1項では、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」として、課税文書を「作成」した場合に、作成者が印紙税を納める義務があると定められている。
 この「作成」について、印紙税法上規定はない。しかし、印紙税法基本通達第44条1項では、「法に規定する課税文書の『作成』とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」と定められている。そして、同条2項では、「課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。」として、契約書といった「相手方に交付する目的で作成される課税文書」については「当該交付の時」とされている。
 そのため、上記通達によると、契約書の「作成」とは、紙の書面に記載して、記載された書面を交付することをいうと解されることになる。
 電子契約の場合、電子データはそもそも紙ではないため、紙の書面に記載ということが観念できないし、データを送信するものの交付しているわけではない。 
 このような解釈によって、電子契約では、印紙税法における課税文書を作成していない,と解されているため、課税されていないのである。
 現在、国税庁も当該見解に立っているが、通達である以上、あくまでも行政庁の解釈に基づき非課税の運用がなされているにすぎない。
 今後、電子契約の利用状況等社会情勢の変化によって、行政庁の解釈が変更される可能性があり得るため、注意を要する。
Q3.紙の契約書の場合、作成者の印鑑による押印がなされていれば、当該契約書は真正に成立したと推認されるとされています。そのため、作成者の印鑑による押印があれば、当事者間で、契約書記載の合意があったとして、トラブルが回避できていた面がありました。電子契約を締結した場合、この点はどうなるのでしょうか?
A3.電子契約でも、電子署名及び認証業務に関する法律の3条の要件を満たせば、紙の契約書と同様に、成立の真正が推定されます。ただし、電子契約であっても、契約は申し込みと承諾の一致によって成立しますので,上記要件を満たさなくても、その他の方法によって成立の真正を立証することは十分可能です。
【解説】
 紙の契約書の場合,二段の推定によって,契約書は真正に成立したと推認される(詳細はQ1-3参照)。電子契約でも同様の効果を及ぼすため,電子署名及び認証業務に関する法律3条の定めがあり,当該要件を満たせば、契約の成立の真正が推定される(詳細はQ3-4参照)。
 当該推定が及ばない文書であっても、以下の事実を立証する方法によって電子契約の成立の真正を立証することが可能である。
 例えば、①契約締結に至る交渉経緯を示した電子メール等の内容、②そのような内容の契約を、当該電磁的記録によって締結することが合理的であること、③契約締結に用いられた電子メールアドレスが契約の相手方によって利用されていたものであること、などが考えられる。