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メタバースをめぐる法律問題

更新日:2023.03.28
弁護士
志部淳之介
メタバースをめぐる法律問題
近時、メタバースという言葉が注目を浴びています。

メタバースとは、Meta(超越)とUniverse(宇宙)を合わせた造語であり、インターネット上で他者と現実さながらにコミュニケーションすることができる仮想空間等を指します。
仮想現実や拡張現実という考え方や技術理論は、数十年前から既に存在していました。

近年は、技術の進歩に伴い、いよいよ現実のサービスとして提供される段階へと進んだため、注目が高まっています。
仮想現実空間内で、現実の街並みを再現する場合や、そこで様々なサービスを提供しようとする場合、これまでとは違った法的問題に直面するでしょう。
著作権の問題
例えば、現実の街並みそっくりの建物や美術品等を仮想現実空間に再現する場合、著作権はどのように考えられるのでしょうか。
著作権法上の「建築の著作物」(同法10条1項5号)に当たり得るもの、例えば、東京タワーや凱旋門等は、「著作物」に該当する可能性があります。
もっとも、一般に広く公開されている美術の著作権に関しては、著作権法46条各号に当たる場合を除き、著作権者以外の者による利用が広範に認められています。

したがって、これらを仮想現実空間で再現したとしても、ただちに著作権侵害に当たるとは言えないでしょう。
商標権の問題
それでは、仮想現実空間で、街並みのなかに、有名ブランドの店舗を設置した場合、どのような問題が生じるでしょうか。

背景画像で、有名ブランドのロゴを無断で使用(再現)した場合、どのような法的問題が生じるでしょうか。
単にそのロゴが、仮想現実空間の背景画像にとどまる場合は、その商標が表示されたとしても、一般の需要者が、当該商標権者がメタバースの提供を行っていると認識しないと考えられます。

したがって、出所表示機能を果たす態様での使用とはいえないため、「商標としての使用」とはいえない場合が多いと考えられます。
時代の変化とともに、法律解釈も変化します
一部の仮想現実空間では、既に、現実の店舗と同様の機能を有する店舗型サービス(商品を閲覧し、注文し、現実の自宅へと配送するサービス等)が提供されています。


今後、仮想現実空間での店舗が、実際の店舗と同一主体により運用されることが一般的になれば、仮想現実世界でのロゴ「A」は、現実世界での有名ブランド「A」が出店していると認識する人も増えるでしょう。


人々が、仮想現実空間の商標をみて、当該商標権者が提供しているものであると認識する時代が来るかもしれません。

そのときは、たとえ仮想現実空間内であっても、実在するブランドのロゴの使用は、「商標としての使用」にあたり、商標権侵害の問題を生じることになります。
 
重要なのは、人々が、仮想現実に存在する建物や美術品、看板やロゴ、そこで販売されている商品をみたとき、どのような認識を持つか(現実世界の諸権利との関係)という点にあります。

そして、その認識は、今後、仮想現実世界の進展に伴い、日々、変化していくでしょう。
常に新しい法的リスクに備えること
仮想現実空間の提供、あるいは、その空間内で一定のサービス提供等を考える場合には、こうした時代の変化、人々の認識の返還を意識して、法的なリスクを検討する必要があります。
(参考文献)野口香織編「Web3への法務Q&A」(株式会社きんざい)210頁以下。