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令和3年特商法改正による通信販売の表示規制の強化と実務的対応

更新日:2022.02.17
弁護士
増田朋記
1 令和3年の法改正について
 「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が令和3年6月9日に可決成立し、同月16日に公布された。
 この改正法の中には、特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という。)を改正し、通信販売における表示規制を強化する内容が含まれており(以下、この部分の改正のみを取り上げて「本改正」という。)、同改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において、政令で定める日から施行される。
2 「詐欺的な定期購入商法」への対策
 本改正は、通信販売における「詐欺的な定期購入商法」への対策として盛り込まれた。
 「詐欺的な定期購入商法」とは、インターネットを利用した通信販売の広告画面等において、「初回無料」や「お試し」などと謳って初回分のみを無料や格安で商品を提供するかのように示しながら、実際には消費者に複数回分の定期的な購入契約を結ばせるという手口である。
 近年、このような手口によって、予期せず高額の代金請求を受けた消費者からの被害相談が急増しており、その規制強化が求められたのである。
3 具体的な改正内容
(1)「特定申込み」において表示しなければならない事項
 本改正により、特商法において、新たに「特定申込みを受ける際の表示」についての規制が設けられた。
 「特定申込み」とは、①事業者またはその委託を受けた者が定める様式の書面により顧客が行う通信販売にかかる契約の申し込み、または、②事業者またはその委託を受けた者が顧客のコンピュータ等の映像面に表示する手続きに従って顧客が行う通信販売にかかる契約の申し込みをいうものとされる。
 すなわち、事業者が申込み用紙やオンライン上の申込み手続きを準備し、消費者がそれらにしたがって申込みを行う通信販売が広くその適用対象とされている。
そして、この場合、事業者は、その特定申込みにかかる書面または手続表示画面において、次の事項を表示しなければならないとされる(特商法第12条の6第1項)。


① 当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量

② 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)

③ 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法

④ 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期

⑤ 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容

⑥ 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第十五条の三第一項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を、第二十六条第二項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)


 ①の事項は、特商法第12条の6第1項第1号に定められたものである、「詐欺的な定期購入商法」のように、実際には複数回分の定期購入であるにもかかわらず初回のみの購入であるかのように表示することが許されないのは当然であるが、通常の通信販売を営む場合においても、商品のみならず、権利や役務の販売を含めて、その分量を示すことが法律上の義務として求められることとなった。これまでこのような意識が十分でなかった事業者の方は改めて、自己の申込画面を確認する必要がある。
 また、②から⑥の事項は、同項第2号で定められたもので、特商法法第11条第1号から第5号までに掲げられている事項についての表示を求めている。同条は通信販売についての広告における表示義務を定めた既存の定めである。したがって、これまでもこのような表示は広告画面の中で実施されてきたものと考えられるが、本改正により、⑤の申込みの期間に関する定めについても表示が求められたことに留意する必要がある。
(2)「特定申込み」において表示してはならない事項
 また、事業者は、その特定申込みにかかる書面または手続表示画面において、次の事項を表示してはならないとされる(特商法第12条の6第2項)。


① 当該書面の送付又は当該手続に従った情報の送信が通信販売に係る売買契約または役務提供契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示

② 上記表示しなければならないとされる事項について、人を誤認させるような表示
(3)不実の告知の禁止
 また、本改正は、通信販売において、事業者の不実の告知の禁止を導入している。すなわち、事業者は、通信販売に係る契約の申込みの撤回または解除を妨げるため、当該契約の申込みの撤回または解除に関する事項や、消費者が当該契約の締結を必要とする事情に関する事項につき、不実のことを妨げる行為をしてはならないとされる(特商法第13条の2)。
(4)行政処分・刑事処分
 上記の各規制に違反した場合、事業者は指示等(特商法第14条)あるいは業務停止等(特商法第15条)の行政処分を受けることとなる。
 さらに、これらの違反行為に対しては、懲役や罰金といった刑事罰についても、直接に科されうることとされている(特商法第70条、第72条)。
(5)契約の取消し
 加えて、通信販売において特定申込みがあった場合については、事業者の表示によって誤認した消費者からの契約取消しも認められることとなった(。
 すなわち、特定申込みをした消費者は、事業者が上記の不実の告知の禁止に違反し、または上記の表示しなければならない事項を表示せず、あるいは上記の表示をしてはならない事項を表示したことによって誤認を生じ、それによって当該特定申込みの意思表示をしたときは、これを取り消すことができるものとされる特商法第15条の4)。
4 実務的対応
 上記のとおり、本改正は「詐欺的な定期購入商法」という悪質商法への対策として規制を強化したものである。
 しかし、その規制内容は、事業者側が申込画面を用意して提供する通信販売を広く適用対象としており、通信販売を利用して商品やサービスを提供する多くの事業者にとって、その申込画面の記載について見直しが必要となると考えられる。
 違反した場合には刑事罰を含む厳しい処分が科され得る上、業法的な規制にとどまっていたこれまでと異なり、特定商取引法の中で、消費者からの契約を取消しという民事的効果も定められることとなっており、こうした事態が発生するリスクを考えれば、一定のコストをかけても、改正法の施行までに申込画面等の見直しを実施しておくべきであろう。