1 はじめに
令和7年6月4日,「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下,「AI推進法」という。)が公布され,同日より同法が施行された(なお,第3章及び第4章の規定は,公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行)。
そこで,以下,当該法律の背景やEU・アメリカでの規制等を踏まえながら,当該法律の内容について検討を行うこととする。
そこで,以下,当該法律の背景やEU・アメリカでの規制等を踏まえながら,当該法律の内容について検討を行うこととする。
2 各国の規制状況
(1)概要
AIに対する規制については,法律によって禁止や制限を行う方法(ハードロー)と,強制力のないガイドライン等によってある程度の方向性を示すも,基本的には社会の自主性に委ねる方法(ソフトロー)がありえる。
前者,すなわち,法令に基づく罰則・行政処分等の法的制裁がある場合には,これに基づいて公的機関が何かしらの強制力を発動することが可能であるため,規律の実効性の確保が得られやすいという利点がある。その一方で,規制を行った分野の発展を阻害する可能性があるし,強制力を発動する場合には,国民の権利や利益に影響を及ぼすことから,規制自体やその要件等が明確である必要があり,その規制を検討するには一定の時間を要し,柔軟性に欠けるといった欠点がある。
一方,後者,すなわち,法的制裁を伴わないガイドライン等の規制では,国際情勢や最新技術の動向に合わせた迅速かつ柔軟な対応が可能となり,イノベーションに与えるマイナスの影響が少ないという利点がある。しかし,法的制裁を伴わないことから,事業者等の自主的な対応に頼らざるを得なくなり,実効性がどこまで確保できるのか不明であるという欠点がある。
これまで,前者の代表がEU,後者の代表がアメリカや日本とされていた。
前者,すなわち,法令に基づく罰則・行政処分等の法的制裁がある場合には,これに基づいて公的機関が何かしらの強制力を発動することが可能であるため,規律の実効性の確保が得られやすいという利点がある。その一方で,規制を行った分野の発展を阻害する可能性があるし,強制力を発動する場合には,国民の権利や利益に影響を及ぼすことから,規制自体やその要件等が明確である必要があり,その規制を検討するには一定の時間を要し,柔軟性に欠けるといった欠点がある。
一方,後者,すなわち,法的制裁を伴わないガイドライン等の規制では,国際情勢や最新技術の動向に合わせた迅速かつ柔軟な対応が可能となり,イノベーションに与えるマイナスの影響が少ないという利点がある。しかし,法的制裁を伴わないことから,事業者等の自主的な対応に頼らざるを得なくなり,実効性がどこまで確保できるのか不明であるという欠点がある。
これまで,前者の代表がEU,後者の代表がアメリカや日本とされていた。
(2)EUにおける規制
EUでは,2024年5月21日,生成AIを含む包括的なAI規制である「欧州(EU)AI規制法」が成立し,同年8月1日に発効している。
当該法律では,AIによるリスクを,その程度に応じて,①許容できないリスク,②ハイリスク,③特定の透明性が必要なリスク,④最小リスクの4段階に分類する。具体例としては,①が潜在意識へ働きかけて人間の行動を操作すること等,②が企業での採用活動における採用選考への利用等,③が実際に存在するものと酷似させたコンテンツ(ディープフェイクコンテンツ)等,④が①ないし③以外のものが挙げられている。
そして,そのリスクの程度に応じた規制が定められており,①は禁止,②は一定の要件と事前適合性評価に準拠しない限りは禁止,③は情報・透明性の義務を条件として認められ,④は基本的に自由とされている。
このように,EUでは,AIの利活用について法律によって禁止や制限を厳格に定めることで,AIの利用に伴うリスクを回避しようとしている。
当該法律では,AIによるリスクを,その程度に応じて,①許容できないリスク,②ハイリスク,③特定の透明性が必要なリスク,④最小リスクの4段階に分類する。具体例としては,①が潜在意識へ働きかけて人間の行動を操作すること等,②が企業での採用活動における採用選考への利用等,③が実際に存在するものと酷似させたコンテンツ(ディープフェイクコンテンツ)等,④が①ないし③以外のものが挙げられている。
そして,そのリスクの程度に応じた規制が定められており,①は禁止,②は一定の要件と事前適合性評価に準拠しない限りは禁止,③は情報・透明性の義務を条件として認められ,④は基本的に自由とされている。
このように,EUでは,AIの利活用について法律によって禁止や制限を厳格に定めることで,AIの利用に伴うリスクを回避しようとしている。
(3)韓国における規制
また,韓国では,2024年12月26日に「人工知能(AI)の発展と信頼の構築に関する基本法」(AI基本法)が成立し,2025年1月21日付で公布された。アジアでは初のAIの規制に関する法律であり,2026年1月22日に施行される予定である。
AI基本法では,AI事業者に,透明性を確保する義務及び安全性を確保する義務を課すとともに,人の生命,身体の安全及び基本権に重大な影響を及ぼす,又は危険をもたらすおそれがある人工知能システムであって,一定の重要な領域で活用されるAIシステムを利用する事業者には,より高度な安全性·信頼性確保義務を課した。
そして,AI基本法では,法違反に対する制裁手段として,科学技術情報通信部長官は,上記義務の違反に対して事実調査を行うことができ,これにより違反事実が認められれば中止·是正命令を発することができるとされ,当該中止·是正命令を履行しなかった者には過料賦課の対象になるとされた。
このように,韓国では,EU同様,法律によって禁止や制限を厳格に定めることで,AIの利用に伴うリスクを回避しようとしている。
AI基本法では,AI事業者に,透明性を確保する義務及び安全性を確保する義務を課すとともに,人の生命,身体の安全及び基本権に重大な影響を及ぼす,又は危険をもたらすおそれがある人工知能システムであって,一定の重要な領域で活用されるAIシステムを利用する事業者には,より高度な安全性·信頼性確保義務を課した。
そして,AI基本法では,法違反に対する制裁手段として,科学技術情報通信部長官は,上記義務の違反に対して事実調査を行うことができ,これにより違反事実が認められれば中止·是正命令を発することができるとされ,当該中止·是正命令を履行しなかった者には過料賦課の対象になるとされた。
このように,韓国では,EU同様,法律によって禁止や制限を厳格に定めることで,AIの利用に伴うリスクを回避しようとしている。
(4)アメリカにおける規制
一方,アメリカは,ソフトローでの制限を前提にしていたが,2023年10月,バイデン元大統領が,各連邦政府機関に対してガイダンスや利活用基準の作成等の各種の対応を義務付け,一定の基準を満たす大規模なAIシステムの開発者に対して,安全性に関するテスト結果の共有等を義務付ける内容の大統領令を発令していた。
これによって,アメリカもソフトロー一辺倒ではなく,ハードローでの規制の導入を開始するのではないかと考えられた。
ところが,大統領が交代した直後である2025年1月,トランプ大統領は,バイデン元大統領が発令した上記大統領令を撤回した。そして,アメリカのAI 分野での世界的な優位性を維持及び強化することがアメリカの政策と明確に宣言した上で,関係する連邦政府機関に対して,当該政策を達成するための行動計画の策定を指示する新たな大統領令を発令した。
すなわち,トランプ政権下のアメリカでは,規制緩和,ソフトローの方向性に改めて舵を切ったと評価できそうである。
なお,現時点では,AIについて明確な規制をしている州法がいくつか成立しているが(2025年7月時点では成立のみで未施行),AIの規制に関する連邦法は成立しておらず,連邦法での規制のあり方について,現在,アメリカ国内で様々な検討が行われている状況のようである。
これによって,アメリカもソフトロー一辺倒ではなく,ハードローでの規制の導入を開始するのではないかと考えられた。
ところが,大統領が交代した直後である2025年1月,トランプ大統領は,バイデン元大統領が発令した上記大統領令を撤回した。そして,アメリカのAI 分野での世界的な優位性を維持及び強化することがアメリカの政策と明確に宣言した上で,関係する連邦政府機関に対して,当該政策を達成するための行動計画の策定を指示する新たな大統領令を発令した。
すなわち,トランプ政権下のアメリカでは,規制緩和,ソフトローの方向性に改めて舵を切ったと評価できそうである。
なお,現時点では,AIについて明確な規制をしている州法がいくつか成立しているが(2025年7月時点では成立のみで未施行),AIの規制に関する連邦法は成立しておらず,連邦法での規制のあり方について,現在,アメリカ国内で様々な検討が行われている状況のようである。
(5)中国における規制
中国では,2025年にはAI技術のうち一部の分野で世界をリードする水準を,2030年にはAI技術全体において世界をリードする水準を目指すとして,国が主導してAIの推進を進めている。
このようなAIの推進の結果,中国国内で様々な生成AIサービスが提供されるようになったが,その反面,フェイクニュース,個人情報の不正取得等,著作権侵害といった生成AIのもたらすリスクが生じるに至った。そこで,当該リスクに対応するため,中国では,2023年8月15日,生成AIサービス利用暫定弁法が施行された。同法では,生成AIモデル開発段階では,AIの学習とデータラベリング等に一定の義務を課すものの厳しい規制は設けず,サービス提供段階で,生成AIモデル開発段階に課された規制に比べると厳しい規制を設けて上記リスクを回避するようにしている。このような段階ごとに規制を設けたのは,研究開発を阻害することは回避しつつ,生成AIサービスが提供されリスクが現実化する時点で厳しく対策を行うという姿勢を示しているからであろう。
中国の規制は,EUや韓国に比べると規制は緩やかであり,アメリカと比べると規制が厳しく,両者の中間形態と評価することができるかもしれない。
このようなAIの推進の結果,中国国内で様々な生成AIサービスが提供されるようになったが,その反面,フェイクニュース,個人情報の不正取得等,著作権侵害といった生成AIのもたらすリスクが生じるに至った。そこで,当該リスクに対応するため,中国では,2023年8月15日,生成AIサービス利用暫定弁法が施行された。同法では,生成AIモデル開発段階では,AIの学習とデータラベリング等に一定の義務を課すものの厳しい規制は設けず,サービス提供段階で,生成AIモデル開発段階に課された規制に比べると厳しい規制を設けて上記リスクを回避するようにしている。このような段階ごとに規制を設けたのは,研究開発を阻害することは回避しつつ,生成AIサービスが提供されリスクが現実化する時点で厳しく対策を行うという姿勢を示しているからであろう。
中国の規制は,EUや韓国に比べると規制は緩やかであり,アメリカと比べると規制が厳しく,両者の中間形態と評価することができるかもしれない。
3 日本のAI推進法
(1)成立の背景
日本では,AI推進法が成立する前段階において,AI戦略会議・AI制度研究会がAIに関する規制のあり方について検討を重ねており,2025年2月に「中間とりまとめ*1」を発表していた。
これによると,これまで日本では,AIに起因するリスクや問題の対処は,各分野の既存の法令によって対応しており,例えば,性的な動画コンテンツの出演者の顔を芸能人の顔にすり替えインターネット上に公開した事件では刑法の名誉毀損罪と著作権法違反,生成 AI を用いてコンピュータウイルスを作成した事件では刑法の不正指令電磁的記録に関する罪,生成 AI を用いて女性のキャラクターを作って現金をだましとった事件では刑法の詐欺罪等で対応していた。その上で,各省庁が一定の考え方を示したり,総務省及び経済産業省が「AI事業者ガイドライン*2」を公表して,AI システム・サービスを開発・提供・利用には,法の支配,人権,民主主義,多様性及び公平公正な社会の尊重が必要である旨等を示して,法的制裁による規制のない方法でAIの開発・提供・利用の適正化を促していた。
これまでの上記経過を踏まえつつ,中間とりまとめでは,日本の企業等は法令遵守の意識が高いと考えられるため,新たな規制が制定された場合,当該規制の遵守を意識するあまり,新たな研究開発やサービスの開発・展開を必要以上に躊躇する可能性があること,技術の発展やサービスの変化が急速なAIの分野において,過度な規制により研究開発やサービスの開発・展開を抑制させてしまうことは,将来にわたって我が国の国際競争力を損なう危険性をはらむことから,新たな制度を検討 ・導入するにあたってはイノベーションに与える影響を十分に留意する必要があることが指摘された。そして,当該観点から,イノベーション促進とリスクへの対応の両立を確保するため,法令とガイドライン等のソフトローを適切に組み合わせ,基本的には,事業者の自主性を尊重し,法令による規制は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに限定して対応していくべきとして,今後のAIの規制の方向性を明確にした。
その上で,仮に法律上の規制による対応を行う場合には,事業者の活動にもたらす影響の大きさを考慮しつつ,AIのもたらすリスクを踏まえた上で,真に守る必要のある権利利益を保護するために必要な適用内容とすべきであるとされた。
このように,中間とりまとめは,厳しい規制によってAIの開発や利用推進を制限してしまうことを懸念する一方で,今後AIによって生じるリスクに対応する適切な規制が存在しないということも避ける必要があるとして,既存の法令による対応を優先し,今後立法を行う場合には,最低限の追加の対応のみを行うべきであるという見解を明確に提示したのである。
そして,全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化,戦略の策定,また,安全性の向上のための透明性や適正性の確保等が求められていることから,必要に応じて制度整備することが適当とされ,この見解を踏まえて制定されたのがAI推進法であった。
これによると,これまで日本では,AIに起因するリスクや問題の対処は,各分野の既存の法令によって対応しており,例えば,性的な動画コンテンツの出演者の顔を芸能人の顔にすり替えインターネット上に公開した事件では刑法の名誉毀損罪と著作権法違反,生成 AI を用いてコンピュータウイルスを作成した事件では刑法の不正指令電磁的記録に関する罪,生成 AI を用いて女性のキャラクターを作って現金をだましとった事件では刑法の詐欺罪等で対応していた。その上で,各省庁が一定の考え方を示したり,総務省及び経済産業省が「AI事業者ガイドライン*2」を公表して,AI システム・サービスを開発・提供・利用には,法の支配,人権,民主主義,多様性及び公平公正な社会の尊重が必要である旨等を示して,法的制裁による規制のない方法でAIの開発・提供・利用の適正化を促していた。
これまでの上記経過を踏まえつつ,中間とりまとめでは,日本の企業等は法令遵守の意識が高いと考えられるため,新たな規制が制定された場合,当該規制の遵守を意識するあまり,新たな研究開発やサービスの開発・展開を必要以上に躊躇する可能性があること,技術の発展やサービスの変化が急速なAIの分野において,過度な規制により研究開発やサービスの開発・展開を抑制させてしまうことは,将来にわたって我が国の国際競争力を損なう危険性をはらむことから,新たな制度を検討 ・導入するにあたってはイノベーションに与える影響を十分に留意する必要があることが指摘された。そして,当該観点から,イノベーション促進とリスクへの対応の両立を確保するため,法令とガイドライン等のソフトローを適切に組み合わせ,基本的には,事業者の自主性を尊重し,法令による規制は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに限定して対応していくべきとして,今後のAIの規制の方向性を明確にした。
その上で,仮に法律上の規制による対応を行う場合には,事業者の活動にもたらす影響の大きさを考慮しつつ,AIのもたらすリスクを踏まえた上で,真に守る必要のある権利利益を保護するために必要な適用内容とすべきであるとされた。
このように,中間とりまとめは,厳しい規制によってAIの開発や利用推進を制限してしまうことを懸念する一方で,今後AIによって生じるリスクに対応する適切な規制が存在しないということも避ける必要があるとして,既存の法令による対応を優先し,今後立法を行う場合には,最低限の追加の対応のみを行うべきであるという見解を明確に提示したのである。
そして,全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化,戦略の策定,また,安全性の向上のための透明性や適正性の確保等が求められていることから,必要に応じて制度整備することが適当とされ,この見解を踏まえて制定されたのがAI推進法であった。
*1 | https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/interim_report.pdf |
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*2 | https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20240419_report.html |
(2)目的
AI推進法の目的は,AI関連技術が我が国の経済社会の発展の基盤になる技術であることから,その研究開発及び活用の推進に関する施策について,基本理念,基本的な推進に関する計画の策定,その他の施策の基本となる事項を定め,人工知能戦略本部(以下,「AI本部」という。)を設置して,AI関連技術の研究開発及び活用の推進(以下,「AI推進」という。)に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り,もって国民生活の向上,国民経済の発展に寄与することである。(第1条)。
ここでは,国が,AI推進の方向性を決め,AI本部によってその施策を推進するとされており,中国のような国が主導することまでは想定してはいないものの,国が重要な役割を果たすことを明示している。
ここでは,国が,AI推進の方向性を決め,AI本部によってその施策を推進するとされており,中国のような国が主導することまでは想定してはいないものの,国が重要な役割を果たすことを明示している。
(3)基本理念
AI推進法では,AI推進は,以下の基本理念に基づいて行うとされている(第3条1項)
まず,AI推進は,経済社会及び安全保障上重要であることに鑑み,研究開発力を保持し国際競争力を向上させるために行うとされる(同条2項)。
次に,AI推進は,基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階の関係者の取り組みが密接に関連していることに鑑み,これらの取り組みを総合的・計画的に推進するために行うとされる(同条3項)。
また,AI関連技術の研究開発及び活用は,不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には,国民生活の平穏や国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み,AI関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保等が講じられなければならないとされる(同条4項)。
最後に,AI関連技術の研究開発及び活用が,我が国及び国際社会の平和と発展に寄与するものとなるよう,AI推進は国際的強調の下に行い,我が国が国際協力において主導的役割を果たすよう務めるとされている(同条5項)。
当該基本理念においては,日本でのAI開発・活用が遅れていること及び多くの国民がAIに対して不安を抱いていることを前提として,国民の不安を払拭し,日本が国際社会において主導的な役割を果たせるようなAI開発・活用を目指していることが明らかになっている。
まず,AI推進は,経済社会及び安全保障上重要であることに鑑み,研究開発力を保持し国際競争力を向上させるために行うとされる(同条2項)。
次に,AI推進は,基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階の関係者の取り組みが密接に関連していることに鑑み,これらの取り組みを総合的・計画的に推進するために行うとされる(同条3項)。
また,AI関連技術の研究開発及び活用は,不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には,国民生活の平穏や国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み,AI関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保等が講じられなければならないとされる(同条4項)。
最後に,AI関連技術の研究開発及び活用が,我が国及び国際社会の平和と発展に寄与するものとなるよう,AI推進は国際的強調の下に行い,我が国が国際協力において主導的役割を果たすよう務めるとされている(同条5項)。
当該基本理念においては,日本でのAI開発・活用が遅れていること及び多くの国民がAIに対して不安を抱いていることを前提として,国民の不安を払拭し,日本が国際社会において主導的な役割を果たせるようなAI開発・活用を目指していることが明らかになっている。
(4)責務
そして,AI推進法では,上記基本理念に従って,各当事者に以下の責務を負わせた。
まず,国には,AI推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し,実施する責務を負担させ(第4条),地方公共団体には,国と役割分担をして,地方公共団体の区域特性を生かした自主的な施策を策定,実施する責務を負わせた(第5条)。
また,研究開発機関には,AI関連技術の研究開発及びその成果の普及,人材育成に努めること(第6条),AI技術を活用する事業者には,積極的なAI技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めること(第7条),国民には,AI関連技術に対する理解と関心を深めるよう務めることとし(第8条),いずれにも国や地方公共団体が実施する施策に協力することを求めた。なお,研究会開発期間,事業者,国民の責務は「務める」という規定の文言から努力義務と考えられる。そして,当該違反があったとしても,罰則等のペナルティは定められていないことと併せ考えると,AI推進法は禁止や制限を行うものではないことから,あくまでもソフトローとしての位置づけがとられている。
まず,国には,AI推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し,実施する責務を負担させ(第4条),地方公共団体には,国と役割分担をして,地方公共団体の区域特性を生かした自主的な施策を策定,実施する責務を負わせた(第5条)。
また,研究開発機関には,AI関連技術の研究開発及びその成果の普及,人材育成に努めること(第6条),AI技術を活用する事業者には,積極的なAI技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めること(第7条),国民には,AI関連技術に対する理解と関心を深めるよう務めることとし(第8条),いずれにも国や地方公共団体が実施する施策に協力することを求めた。なお,研究会開発期間,事業者,国民の責務は「務める」という規定の文言から努力義務と考えられる。そして,当該違反があったとしても,罰則等のペナルティは定められていないことと併せ考えると,AI推進法は禁止や制限を行うものではないことから,あくまでもソフトローとしての位置づけがとられている。
(5)基本的施策
AI推進法では,国がとるべき基本的な施策が明記されている。
すなわち,①研究開発の推進(第11条),②施設等の整備・共用の促進(第12条),③適正性のための国際規範に則した指針の整備(第13条),④人材確保(第14条),⑤教育振興(第15条),⑥情報収集,権利利益の侵害する事案の分析・対策検討,調査及び事業者・国民への指導・助言・情報提供(第16条),⑥国際的な規範策定の参画(第17条)。
当該施策からも,国が,AI開発・活用を推進する際に重要な役割を果たすことを明記しているといえる。
すなわち,①研究開発の推進(第11条),②施設等の整備・共用の促進(第12条),③適正性のための国際規範に則した指針の整備(第13条),④人材確保(第14条),⑤教育振興(第15条),⑥情報収集,権利利益の侵害する事案の分析・対策検討,調査及び事業者・国民への指導・助言・情報提供(第16条),⑥国際的な規範策定の参画(第17条)。
当該施策からも,国が,AI開発・活用を推進する際に重要な役割を果たすことを明記しているといえる。
(6)AI基本計画
とはいえ,国が重要な役割を果たすとしても,具体的な決定機関や機動性を確保する必要がある。そこで,AI推進法は,まずは政府に対して,上記基本理念にのっとり,上記基本的施策を踏まえ,AI推進に関する基本的な計画を定めるものとし,その計画は①AI推進の関する施策の基本的方針,②AI推進に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策,③その他必要な事項を定めるとされた(第18条)。
(7)AI本部
ただし,政府が計画を行うとしても,その妥当性の確保等を図る必要があることから,AI推進法では,AI推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため,内閣にAI本部を設置して(第19条),AI推進及びAI推進に関する施策で重要なものの企画や立案総合調整の事務を司ると定めた(第20条)。
AI本部は,AI戦略本部長である内閣総理大臣(第22条),副部長である内閣官房長官及びAI戦略担当大臣(第23条),その他のAI戦略本部員であるその余の全国務大臣(第24条)で組織され(第21条),関係行政機関等に対して必要な協力を求めることができるともされた(第25条)。
これによって,政府が進めるAI推進に関する基本的な計画に対して,AI本部によるコントロールを及ぼし,機動性を確保しつつ間接的に民意を反映させた規制することとを両立させようとしたのだと考えられる。
AI本部は,AI戦略本部長である内閣総理大臣(第22条),副部長である内閣官房長官及びAI戦略担当大臣(第23条),その他のAI戦略本部員であるその余の全国務大臣(第24条)で組織され(第21条),関係行政機関等に対して必要な協力を求めることができるともされた(第25条)。
これによって,政府が進めるAI推進に関する基本的な計画に対して,AI本部によるコントロールを及ぼし,機動性を確保しつつ間接的に民意を反映させた規制することとを両立させようとしたのだと考えられる。
(7)結語
上記のとおり,この度日本で成立したAI推進法は,禁止や制限を設けず,ソフトローの枠組みを用いつつ,AI推進については,国が重要な役割を果たすこと,AIの研究開発や活用を促進しつつ,そのリスクを回避しようとしたものといえる。
つまり,同法では,日本のAI推進は,中国のような国家主導的な方法とアメリカ型のソフトロー中心の規制を組み合わせて,強力にAI推進を進めていこうとする姿勢が打ち出されていることが明確になっているといえよう。
ただし,AI推進法では何ら具体的な規制等が定められていないことから,今後の状況如何によっては,新たな法律の策定がなされるかもしれないし,従来法の解釈,新たなガイドライン等の策定等によって対策がとられる可能性がある。
そのため,AIの規制については,法律のみ注視するのではなく,その他の規制も含めて幅広く見ていく必要があろう。
つまり,同法では,日本のAI推進は,中国のような国家主導的な方法とアメリカ型のソフトロー中心の規制を組み合わせて,強力にAI推進を進めていこうとする姿勢が打ち出されていることが明確になっているといえよう。
ただし,AI推進法では何ら具体的な規制等が定められていないことから,今後の状況如何によっては,新たな法律の策定がなされるかもしれないし,従来法の解釈,新たなガイドライン等の策定等によって対策がとられる可能性がある。
そのため,AIの規制については,法律のみ注視するのではなく,その他の規制も含めて幅広く見ていく必要があろう。