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「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」中間報告書について

更新日:2025.03.10
弁護士 錦見壽紘
 2023年10月から、「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」が開催され、2024年10月に中間報告書が出された。中間報告書の内容について、まとめさせていただく。
第1章:メタバースをめぐる最近の動向
(1)市場動向
 市場について、eコマースやゲームを中心に市場は拡大していくと予想されており、日本のメタバース市場は、株式会社矢野経済研究所によれば、2022年度の1,377億円から5年後の2027年には2兆59億円まで及ぶ予想である。

(2)国内の動向
 内閣府知的財産戦略推進事務局は、同事務局は、メタバースの発展に伴う仮想空間上のコンテンツ創作・利用等をめぐる新たな動向に鑑み、それらがもたらす新たな法的課題に対応するため、2022年11月より「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」を設置し、3つの分科会(「現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱い(第一分科会)」、「アバターの肖像等に関する取扱い(第二分科会)」、「仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱い(第三分科会)」)を設けた。
 その他にも、京都府などの業界団体が取り組んでいる内容についても説明がされた。
 ユーザの動向についての報告もあり、仮想空間を用いたサービスの利用があるかについては、10代、20代が他の年代に比べると高いという回答であった。

(3)海外の動向
 海外の最新の動向については、以下のとおりである。
アメリカ:2024年1月、NIST(国立標準技術研究所)の没入型技術に関する現状調査がなされ、意見募 集の結果を没入型技術のプライバシーとサイバーセキュリティの効果的なリスク管理を支援するためのガイドライン、ツール等の開発に活用するとしている。
EU(欧州連合):2024年1月、EU競争総局(DG Competition)は仮想空間と生成AIに関する意見募集を開始した。
英国:2023年10月、オンライン安全法が成立した。
中国:2023年8月、MIIT(中国工業情報化部)は関係機関と連名で、「メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画(2023-2025年) 」を発表した。
韓国:2024年2月、世界初のメタバース産業振興法「仮想融合産業振興法」が韓国で成立した。

(4)国際的な議論の状況
 国際的な議論の状況について、MSF(メタバース・スタンダード・フォーラム)では、2023年8月にワーキンググループ検証が承認され、憲章内の取組を2024年から2025年にかけて実施予定であることやその他ITU-T(電気通信標準化部門)、OECD、G7などでの議論の状況が紹介された。

(5)インターネット上の情報流通の特性による影響の可能性
 メタバースにおいても「エコーチェンバー1」と「フィルターバブル2」が生じ、特定のプラットフォーム又はワールドで、極端な指向性をもった集団の形成・凝集が促される可能性が指摘された。また、メタバースでヘイトスピーチやヘイトクライムゲームなど差別的なコンテンツが問題となった場合に、国家はどのような対応をとるべきかという問題意識も共有された。さらに、SNS以上に強力なフィルターバブルが形成される可能性があるという意見も見られた。このような議論は、表現の自由との関係を踏まえつつ、国家がどの程度メタバースでの情報の多様性の維持に対応するべきか、という将来的課題を示唆するとされた。
 これらの課題に対し、総務省では、2023 年 11 月より「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」を開催しており、2024年5月、「インターネット上の偽・誤情報対策に係るマルチステークホルダーによる取組集」が公表されるなどされている。

1エコーチェンバー:SNS等で同じ関心や思想を持つ者同士がフォローし合うことで、閉鎖的な情報ネットワークが形成される現象。
2フィルターバブル:SNSやショッピングサイト等でネットユーザ個人の検索履歴やクリック履歴がアルゴリズムにより分析・学習されることにより、個々のユーザが望むと望まざるとにかかわらず、自分の選好に沿った情報の優先的な表示やユーザの観点に合わない情報からの隔離が行われ、その結果、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立してしまう、という情報環境。
第2章:メタバースの原則(第1.0版)の検討
 本研究会において、メタバースにおける民主的価値の主な要素を示した上で、これを実現するため、仮想空間そのものの提供を担うメタバース関連サービス提供者が果たす役割が特に重要であることに注目して、メタバース関連サービス提供者の取組として期待される項目に関する原則を検討されてきた。検討の途中経過として、「前文」、「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」、「メタバースの信頼性向上に関する原則」から構成される」「メタバースの原則(1次案)」が2024年3月に示された。

(1)前文
 民主的価値の主な要素として以下の3点が国際的な共通認識として、メタバースの将来像の醸成を図ることが重要であるとされている。
 ①メタバースが自由で開かれた場として提供され、世界で広く享受されること、②メタバース上でユーザが主体的に行動できること、③メタバース上での活動を通じて物理空間及び仮想空間内における個人の尊厳が尊重されること。

 そして、メタバース関連サービス提供者の取組として2つの大きな柱として原則の位置付けがされた。
 ①社会と連携しながら更なるメタバースにおける自主・自律的な発展を目指すための原則
 ②メタバース自体の信頼性向上のために必要な原則
(引用元:安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2024 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.soumu.go.jp/main_content/000931138.pdf)

(2)原則及び解説
<オープン性・イノベーション>
・自由で開かれた場としてのメタバースの尊重
(解説)誰もがアクセスできる、自由で開かれた空間として発展を遂げたインターネットと同様に、様々な属性のユーザによる参画とその主体的な取組が今後のメタバースの発展に欠かせない。メタバース関連サービス提供者は、様々な属性のユーザの参画を歓迎するとともに、ユーザの自主性を尊重したメタバースサービスの開発・運営等を行うことが期待される。

・自由な事業展開によるイノベーション促進、多種多様なユースケースの創出
(解説)メタバースが様々な分野・目的で利活用されることにより、社会課題の解決にも寄与し得ることから、メタバース関連サービス提供者は、創意工夫に基づき自由に事業を展開することを通じて、イノベーションを促進させ、ユーザとともに多種多様なユースケースの創出に繋げることが期待される。

・アバター、コンテンツ等についての相互運用性の確保
(解説)メタバースの利活用において、ユーザが様々なサービスを選択できることは、ユーザの利便性やオープン性の向上・イノベーションの促進につながることから、メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、アバターやコンテンツ等を複数プラットフォーム間で利用可能となるよう、相互運用性の確保に努めることが期待される。

・知的財産権等の適正な保護
(解説)メタバース上でクリエイターが安心してコンテンツ等を創作し、ユーザも安心してその利用が可能となるよう、メタバース関連サービス提供者は、メタバースサービスの開発・運営等に当たり、知的財産権をはじめとする諸権利の適正な保護に努めることが期待される。また、メタバース関連サービス提供者は、利用規約やコミュニティガイドライン等を通じて、知的財産権をはじめとする諸権利の適正な保護の重要性についてユーザへの浸透を図るとともに、文書により明示することが期待される。

<多様性・包摂性>
・物理空間の制約にとらわれない自己実現・自己表現の場の提供
(解説)メタバース上でユーザが物理空間での年齢、性別、居住地等の属性や制約にとらわれることなく活動をし、自己実現・自己表現につなげることができるよう、メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、開発・運営等を行うことが期待される。

・様々な国・地域、ユーザ属性等による文化的多様性の尊重
(解説)メタバース関連サービス提供者は、メタバースが国境を越えて提供され、様々な国・地域から、社会的・文化的背景の異なるユーザが参加する可能性があること、また、それらが個々のメタバースの文化を生み出すことを認識し、様々なユーザの属性に配慮するとともに、属性の異なるユーザ同士であっても互いに尊重し合う意識を醸成することにより、文化的多様性が尊重されるよう取り組むことが期待される。

・多様な発言等の確保(フィルターバブル、エコーチェンバーといった問題が起きにくいメタバース)
(解説)メタバース関連サービス提供者は、デジタル空間における情報流通の特性から生じ、偽・誤情報の流通・拡散等のリスクをもたらすフィルターバブルやエコーチェンバーといった問題への対処が、没入感の高さといったメタバースの特性ゆえに今後一層難しい問題となり得ることを認識し、健全な言論空間の維持の必要性を踏まえ、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、ユーザによる多様な発言等とそれらへの接触機会が確保されるよう開発・運営等を行うことが期待される。

・障がい者等の社会参画への有効な手段としての活用
(解説)メタバースは、障がいや心身の状態から物理空間での移動やコミュニケーション等の活動が難しい人にとっても、就学、就労、他者との交流等の場になり得ることから、メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、社会参画への有効な手段として活用がなされるよう開発・運営等に努めることが期待される。

・メタバースへの公平な参加機会の提供
・誰もが使えるユーザビリティの確保
(解説)インターネット上の仮想空間であるメタバースは、アクセス手段があれば誰もが参加できる開かれた場であることが期待される。メタバース関連サービス提供者は、多様かつ柔軟なアクセス方法を通じて、ユーザに対して公平な参加機会を提供するとともに、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、誰でも使いやすいようなユーザビリティを確保することが期待される。

<リテラシー>
・ユーザのメタバースに対する理解度向上の支援
・ユーザのICT リテラシー向上の支援
(解説)社会全体でメタバースの利活用を推進するためには、メタバースに対する理解の促進、ICTリテラシーの向上を図ることが必要となることから、メタバース関連サービス提供者は、ユーザに対し情報提供するとともに、国や自治体、関連団体等と連携し、学習機会
の提供支援等を行うことが期待される。

<コミュニティ>
・コミュニティ運営の自主性の尊重
・コミュニティ発展の支援
(解説)メタバースにおけるコミュニティは、物理空間におけるコミュニティ同様、人々の社会的なつながりの一形態であることから、メタバース関連サービス提供者は、メタバースにおけるコミュニティがユーザによる創意工夫により発展してきた経緯も踏まえ、コミュニティの運営に係るユーザの自主性を尊重するとともに、コミュニティの更なる発展に向けて、ユーザ同士の交流が円滑に実施されるよう支援することが期待される。

<透明性・説明性>
・サービス利用時の保存データ(期間、内容等)及びメタバース関連サービス提供者が利用するデータの明示並びにそれらのユーザへの情報提供
(解説)メタバース関連サービス提供者は、ユーザに係るデータの取扱いが明確になるよう、メタバースの利用に際して取得・保存の対象となるデータの内容やその保存期間をユーザに対して明示するとともに、取得・保存したデータの利用範囲や利用目的、外部提供の有無を含めてユーザに対して可能な限り具体的に明示することが期待される。
 加えて、取得・保存したデータの管理方法や管理体制についても、可能な範囲で明示することが期待される。
 明示に際しては、ユーザが理解しやすいよう視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いて説明するとともに、掲示する場所や方法等についてユーザの目に触れやすいように考慮することが期待される。

・提供するメタバースの特性の説明
(解説)メタバースには多様なものが存在し、ユーザの利用形態も様々であることから、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースサービスの特性について、視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いてユーザに対し説明することが期待される。

・メタバースの利用に際してのユーザへの攻撃的行為や不正行為への対応の説明
(解説)メタバース上でユーザ間のトラブルを抑制するとともに、コミュニケーションが円滑に行われるよう、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースサービスにおいて、どのような行為が他のユーザへの攻撃的行為や不正行為に該当するかについて説明し、また、それらの行為を行ったユーザに対して取り得る対応について説明することが期待される。

<アカウンタビリティ>
・事前のユーザ間トラブル防止の仕組みづくりや事後の不利益を被ったユーザの救済のための取組
(解説)ユーザ間のトラブルによりメタバースの利活用時の安心・安全が損なわれることのないよう、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースにおいて、事前のユーザ間トラブル防止の仕組みづくりや、不利益を被ったユーザへの事後的な救済のための取組に努めることが期待される。

・他のユーザやアバターに対する誹謗中傷及び名誉毀損の抑制
(解説)自由で開かれた場であるメタバースにおいて、他のユーザやアバターに対する誹謗中傷、また名誉毀損につながり得る行為を抑制するために、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースサービスにおいて、こうした行為がなされないようにするため、利用規約やコミュニティガイドライン等を通じてユーザ間、ユーザとメタバース関連サービス提供者の間で当該メタバースサービスに関する共通的な理念を形成し、これに基づき必要な措置を講じることが期待される。

・ユーザ等との対話を通じたフィードバックを踏まえた改善
(解説)ユーザ等の声を踏まえたメタバースの発展のため、メタバース関連サービス提供者は、ユーザや幅広い関係者からの意見の収集によるフィードバックの機会を得て、開発・
運営等の改善につなげることが期待される。

・子ども・未成年ユーザへの対応
(解説)メタバース関連サービス提供者は、子どもや未成年のユーザによるサービスの利用に際して、特段の配慮を要することから、安全の確保及びトラブルの防止に努めることが期待される。

<プライバシー>
・ユーザの行動履歴の適正な取扱い
(解説)メタバースの利用において、ユーザの様々な行動に関する履歴が大量に記録され、蓄積され得る状況を踏まえ、メタバース関連サービス提供者は、ユーザのプライバシーに十分配慮した取扱いを行うことが期待される。

・ユーザとアバターとの紐付けにおけるプライバシーの尊重
(解説)ユーザは、用途や目的に応じてアバターを使い分けるなど、ユーザのアバターに対する自己投射の程度は様々であることに加え、ユーザの公表している情報の度合いも様々であることから、メタバース関連サービス提供者は、ユーザのプライバシーが尊重され、ユーザとアバターの意図しない紐付けにより本人の意に反して情報が公開されることがないよう、利用規約やコミュニティガイドライン等での考え方の明示や、プライバシーを侵害するような行為をしたユーザに対し適切な対応をとることが期待される。

・メタバースの利用に際してのデータ取得、メタバースの構築に際しての写り込み等への法令遵守等による対処
(解説)メタバース関連サービス提供者は、ユーザに係るデータの取得や利用等について、個人情報に係る法令を遵守するとともに、物理空間を撮影したデータを利用する場合や、ユーザによってメタバース上でのスクリーンショットが行われる場合を考慮して、その撮影データにおける人物等のプライバシー情報等の写り込みに対処することが期待される。

・アバター(実在の人物を模したアバターを含む)の取扱いへの配慮(知的財産権、名誉毀損及びパブリシティの観点を含む)
(解説)実在の人物を模したアバターを無断生成・利用した場合には、その容ぼうの実態等に即して肖像権又は知的財産権の侵害が起こり得るほか、その利用の形態によっては実在の人物に対するプライバシー侵害や名誉毀損も起こり得る。また、有名な人物をアバターとして無断生成・利用した場合にはパブリシティ権の問題が生じ得る。メタバース関連サービス提供者は、アバターをめぐる権利の扱いに関する議論の動向等も踏まえ、対応を取ることが期待される。

<セキュリティ>
・メタバースのシステムのセキュリティ確保(外部からの不正アクセスへの対処等)
(解説)メタバース関連サービス提供者は、ユーザに係る情報等を適切に保護する必要性を踏まえ、メタバースに係るシステムのセキュリティが確保されるよう、外部からの不正アクセスへの対処等を含めた必要な措置を講じることが期待される。

・メタバース利用時のなりすまし等の防止
(解説)メタバース関連サービス提供者は、なりすまし等によりユーザに不利益が生じることを防ぐため、必要な措置について検討・導入することが期待される。
第3章:メタバースに関する技術動向等
(1)VR・AR等デバイスの動向等
 VR・ARデバイスの市場動向について、国内における直近のVRデバイスの販売台数は40万台~50万台程度であり、VR・ARデバイスの市場に関するレポートから今後は年率30%以上で成長する見込みとなっている。ARデバイスについては直近でVRデバイスよりも販売台数の規模が小さいものの、今後高い成長率が見込まれている。ユーザ層に関しては、米国では若年層のVRヘッドセット所有率が33%、週間利用率が13%という調査があり、若年層を中心にVRデバイスが浸透していると考えられる。

(2)VR・AR等を用いたメタバースの利活用と課題
 メタバース利活用に係る課題については、身体的な影響・課題、精神的な影響・課題、ユーザのプライバシーに関する影響・課題等、様々な観点で検討・指摘がなされている。その上で、VR・AR等を用いたメタバースサービス・コンテンツによる身体・感覚・行動への影響の仕組みやリスクの明確化及びこれらに関する教育と、コンテンツ提供者へのベストプラクティスの共有について、今後の実施が期待される。

(3)デバイスの進化を踏まえたUI・UXの変化とその影響
 VR・AR等を用いたメタバースにおける入力・出力デバイスの開発動向について、入力デバイスは、ハンドトラッキングやアイトラッキング、音声認識など、体の動きの検知によってより直感的なアバター操作を実現する方向性となっており、今後の操作性の向上が見込まれる。
 出力デバイスは、より現実同様の体験ができるよう、より没入感を増す表現を実現する方向性となっており、今後の表現力の向上が期待される。
 一方、コンテンツ開発負荷の増加や、所持デバイスの差によるメタバース体験の格差などが生じ得ると考えられる。その他、物理空間でのコミュニケーション低下や、メタバース上でのいじめ・ハラスメントが生じる可能性がある。
 社会への影響としては、物理世界だけでは実現できないトレーニングや診療療法による、身体能力向上や精神状態の改善が考えられる。
 一方、悪用された場合、身体能力や精神状態への負の影響が生じる可能性もある。
 今後、負の影響を最小化していき、正の影響を増大させることが期待される。
第4章:メタバースに関する様々な利活用事例
 「メタバースと生成AIの連携」に関する事例と「メタバースの利活用するに当たっての課題解決」についての事例が紹介された。

(1)「メタバースと生成AIの連携」の事例
①生成AIを活用した対話アバター
 AI 音声対話アバターによって、無人でも自然なコミュニケーションが行えるようになり、メタバース上での新たな顧客接点の創出に役立つことが示された。この事例では、ユーザ側が対話の相手をAIと認識していた方が適切なコミュニケーションが取れると考えられると指摘された。また、ハラスメントのような不適切な言動があった場合、AI側から「やめてほしい」旨を明示できるようにするといった対応をしているとのことであった。

②NPCの自動生成及び活用
 生成AIを活用したNPCの製作効率化の一例として、「行動ロジック生成AI」による効率化とその効果が示された。製作したNPCを利用する際は、ユーザの不信感をあおらないためにもNPC であることを明示すべきであるとの意見などが示された。

③メタバースの産業応用(インダストリアルメタバース)
 鉄道車両の 3D モデルを配置したメタバース空間上に、設計情報や説明動画等の各種情報を蓄積・管理・表示することで、直感的な情報提示と操作が可能となるだけでなく、複数のステークホルダーが同じメタバースを参照することで迅速な意思決定が可能となることが示された。インダストリアルメタバースの典型的な適用先の1つである社会インフラ関連のミッションクリティカルな業務では、生成AIのハルシネーションが大きな問題になるため、既存の技術等も組み合わせてのファクトチェックの仕組みを備えることが重要であるとの意見が示された。

(2)メタバースを利活用するに当たっての課題解決
①安心・安全なメタバース空間の実現に向けたセキュリティガイドラインの公表
 2023年12月に公表されたガイドラインでは、ユーザや事業者等のメタバースに関わる全ての関係者に対して、情報セキュリティや利用環境上の課題と解決策を解説するとともに、安心・安全にメタバースを利用・運用するために必要と考えられる要件が示されている。

②メタバース・リテラシーの向上のためのガイドブックの公表
 メタバース・リテラシー検討委員会が公表した2024年1月に「メタバース・リテラシー・ガイドブック」では、メタバースを利用する際に知っておきたいことを 10 個のテーマごとにイラストを用いながらわかりやすく解説した「ユーザー向け」と、それらに対する事業者向けアドバイスを追記した「事業者向け」の2種類が公表されており、それぞれの立場・役割からリテラシー向上のための知識を習得できるよう配慮されている。

③青少年を対象としたメタバースの適正利用の啓発
 小学4年生から高校3年生の青少年とその保護者等に向けた東京都による「メタバース教室」では、参加者が実際にメタバース空間に入り、メタバースの機能や特性を体験しながら、メタバース上で典型的に起こり得る、利用時間・お金のトラブル、アバター・コミュニケーションにまつわるトラブルと、その対処法について理解を深めていく様子が示された。
第5章:今後の検討事項
 今後、メタバースの原則(第1.0版)を踏まえ、国際的な議論を喚起するとともに、共通認識の形成に向けた働きかけを実施していくことが期待される。
また、ユースケースについても、アバターによる交流のほかに、産業利用が更に進むことが見込まれる。
 メタバースの自主自律の考え方を尊重しつつ、メタバース関連サービス提供者やユーザがメタバースの利活用を広げられるよう、メタバースの実現・利用を可能とする没入型技術全般について、人体や精神にもたらす影響等にも目を向けながら、市場の動向やユースケースとともにフォローしていくべきである。また、総務省においては、必要に応じて利活用の環境整備等を行っていくことが求められる。

 今後の検討事項は、①メタバース党に関する国際的な議論の状況のフォロー、②リアルとバーチャルの融合の進展、没入型技術全般を用いた多様なメタバースの利活用促進に係る課題等の検討とされた。