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インターネット通販における「送料無料」表示の見直しの動きについて

更新日:2025.01.23
弁護士
増田朋記
1.「送料無料」表示の見直しについて
 経済産業省の「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」における調査結果によれば、令和4年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、22.7兆円(前年20.7兆円、前々年19.3兆円、前年比9.91%増)に拡大しているとのことです。この市場規模を見ても明らかなとおり、インターネット通販は我々の生活になくてはならないものとなっています。

 そして、そのインターネット通販において、近年よく見られているのが「送料無料」の表示です。「送料無料」とは、通常、消費者が、「送料」という費目を別途に支払うことなく、商品を購入できることを表すもので、消費者の選択に重大な影響を与える表示の一つだと考えられます。

 ところが、いわゆる物流の2024年問題を背景として、このような表示の在り方が見直される動きがありました。
 すなわち、消費者庁では、2023年6月から11月にかけて、「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会において検討が重ねられ、関係者等の意見を踏まえ、消費者庁の考え方として以下のとおり取りまとめられています。
●送料の表示に関し、「送料として商品価格以外の追加負担を求めない」旨を表示する場合には、その表示者は表示についての説明責任がある。
●消費者庁として、関係事業者等に送料表示の見直しを促すととともに、事業者の自主的な取組状況を注視していく。
参照:消費者庁ウェブサイト「物流の「2024年問題」と「送料無料」表示について」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/other/free_shipping/index.html
本稿では、このような消費者庁の考え方を受けて、その後、事業者においてどのような取り組みがなされたのかを概観した上で、今後、インターネット通販を行う上での「送料無料」表示の在り方について留意すべき点等を考察します。
2.物流の2024年問題とは
 そもそも物流の2024年問題とは何でしょうか。これは、端的に言えば、運送業界における人材不足から生じる物流停滞への懸念のことです。

 働き方改革の一環として、時間外労働の上限規制が労働基準法に規定され、2019年4月(中小企業は2020年年4月)から適用されています。一方で、自動車運転の業務を含む一部の業務については、業務の特性や取引慣行の課題があることから、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていました。
 2024年4月からはこの猶予が終わり、自動車の運転業務の時間外労働について年960時間の上限規制が適用されることとなったのです。これは、物流産業を魅力ある職場とすることを目的としたものですが、ドライバーの労働時間が短くなることとなる結果、より多くの数のドライバーの確保が必要となり、何も対策を講じなければ、必要なだけの人手が足りずに物流が停滞しかねなくなることが懸念されたのです*1。これがいわゆる物流の2024年問題です。

 そして、物流の2024年問題について、総合的な検討を行うため、2023年に、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が開催され、同年6月に、同関係閣僚会議で「物流革新に向けた政策パッケージ」がとりまとめられ、「運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべきという観点から、『送料無料』表示の見直しに取り組む」こととされました。
*1具体的には、このまま推移すると輸送力が2024年度には14%(トラックドライバー14万人相当)、2030 年度には34%(トラックドライバー34万人相当)不足するとされていた(「物流革新に向けた政策パッケージ」令和5年6月2日 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議)。
3.消費者庁の考え方の背景
 「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」でとりまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」を受けて、上記のとおり消費者庁は、2023年6月から11月にかけて、「『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」を開催しました。

 同意見交換会では、運送業界と通販業界の双方からの意見と消費者団体の意見についてヒアリングが実施されました。主として運送業界からは、「送料無料」表示が消費者のコスト意識をないものとしているなどとして、これを禁止することが求められました。一方で、主に通販事業者側の立場からは、そもそも「送料無料」表示について本当に消費者に誤解が生じているのかについて疑問が呈され、その見直しの必要性については消極的な意見が述べられていました。

 こうした中で、消費者庁は、「送料無料」表示の見直しについては、何らかの法規制ではなく、自主的な取り組みに委ねつつ、上記のとおり、「送料として商品価値以外の追加負担を求めない」旨を表示する場合には、その表示者は表示についての説明責任があるとの考え方を公表するに至ったのです。
4.実際の取り組み事例
 こうした消費者庁の考え方の公表を受けて、大手の通販サイト運営事業者は、「送料を無料とする仕組み」について自社のウェブサイト上で説明するという対応を取っています。また、「送料無料」の表記を「送料当社負担」という標記に切り替えた事業者もあるようです。*2
*2消費者庁ウェブサイト「「送料無料」表示の見直し取組事例」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/other/free_shipping/efforts
5.消費者庁の考え方を受けた今後の対応について
 「『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」において、通販業界側からも意見が述べられていたとおり、「送料無料」表示を見直すのみによって、物流の2024年問題が解決するとは考え難いように思われ、再配達の削減など別の方策を含めた複合的な対応が必要であると考えられます。

 しかし、消費者の選択への影響という視点からみれば、「送料無料」表示が重大な要素となっていることは間違いありません。例えば、単に送料分が価格に転嫁されているのみであるにもかかわらず、これを「送料無料」と表記することは、消費者を誤認させる表示となり、問題があるように思います。

 今回消費者庁は、考え方を示して自主的な取組に委ねるのみで、法規制にまでは至りませんでしたが、インターネット通販を営む事業者としては、単に誘引力があるからとの理由で安易に「送料無料」表示を用いるのではなく、消費者庁の考え方に示された説明責任について熟慮することが求められます。