弁護士 錦見壽紘
「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」について
2024年6月12日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、「スマホソフトウェア競争促進法」といいます。)が成立した。施行日は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、遅くとも2025年12月には施行されることになる。
そのポイントについては、本ウェブサイトの「Newsletters」で中川雄矢弁護士が既に紹介しており(https://oikelaw-plus.com/blog/741/)、本記事では、より詳しくスマホソフトウェア競争促進法について解説する。
そのポイントについては、本ウェブサイトの「Newsletters」で中川雄矢弁護士が既に紹介しており(https://oikelaw-plus.com/blog/741/)、本記事では、より詳しくスマホソフトウェア競争促進法について解説する。
1 法律の背景や趣旨、目的
(1) 背景や趣旨
公正取引委員会の『(令和6年6月12日)「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」の成立について』によれば、背景や趣旨は以下のとおりである。
スマホソフトウェア競争促進法が制定された背景には、スマートフォンが急速に普及し、国民生活及び経済活動の基盤となる中で、スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン。これらを総称して「特定ソフトウェア」という。)の提供等を行う事業者は、特定少数の有力な事業者(例:AppleやGoogle)が寡占している状態がある。そうすると、特定ソフトウェア市場は、特定少数の有力な事業者の競争制限的な行為によって、公正かつ自由な競争が妨げられている状況になっている。
一方、これらの市場については、新規参入等の市場機能による自発的是正が困難であり、また、独占禁止法による個別事案に即した対応では立証活動に著しく長い時間を要するとの課題があることから、公正かつ自由な競争を回復することが困難であるといえる。
こうした状況を踏まえ、スマートフォンの特定ソフトウェアについて、セキュリティの確保等を図りつつ、競争を通じて、多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスを選択できその恩恵を享受できるよう、競争環境を整備する必要があるという趣旨からスマホソフトウェア競争促進法が制定された。
スマホソフトウェア競争促進法が制定された背景には、スマートフォンが急速に普及し、国民生活及び経済活動の基盤となる中で、スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン。これらを総称して「特定ソフトウェア」という。)の提供等を行う事業者は、特定少数の有力な事業者(例:AppleやGoogle)が寡占している状態がある。そうすると、特定ソフトウェア市場は、特定少数の有力な事業者の競争制限的な行為によって、公正かつ自由な競争が妨げられている状況になっている。
一方、これらの市場については、新規参入等の市場機能による自発的是正が困難であり、また、独占禁止法による個別事案に即した対応では立証活動に著しく長い時間を要するとの課題があることから、公正かつ自由な競争を回復することが困難であるといえる。
こうした状況を踏まえ、スマートフォンの特定ソフトウェアについて、セキュリティの確保等を図りつつ、競争を通じて、多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスを選択できその恩恵を享受できるよう、競争環境を整備する必要があるという趣旨からスマホソフトウェア競争促進法が制定された。
(2) 目的
以上の背景や趣旨を踏まえて、1条の目的規定では、「この法律は、我が国においてスマートフォンが国民生活及び経済活動の基盤としての役割を果たしていることに鑑み、スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェアの提供等を行う事業者に対し、特定ソフトウェアの提供等を行う事業者としての立場を利用して自ら提供する商品又は役務を競争上優位にすること及び特定ソフトウェアを利用する事業者の事業活動に不利益を及ぼすことの禁止等について定めることにより、特定ソフトウェアに係る公正かつ自由な競争の促進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と規定している。
2 法律の概要
(1) 指定事業者とは
まず、対象となる事業者とは、指定事業者といわれて、特定ソフトウェア事業者のうち、当該特定ソフトウェアの提供等に係る事業の規模が政令で定める規模以上であるものを指定事業者という。
政令で定められる規模以上とあり、未だ政令は制定されていないが、公正取引委員会の「モバイルOS等に関する実態報告書について」(令和5年2月9日)において、モバイルOSのシェアについて、世界シェア1位がAndroidのOSであるGoogleであり、世界シェア2位がiPhoneのiOSを開発したAppleと報告されている。そうすると、GoogleやAppleは背景で述べたとおり、寡占している状態であるため、指定事業者に含まれると考えられる。
政令で定められる規模以上とあり、未だ政令は制定されていないが、公正取引委員会の「モバイルOS等に関する実態報告書について」(令和5年2月9日)において、モバイルOSのシェアについて、世界シェア1位がAndroidのOSであるGoogleであり、世界シェア2位がiPhoneのiOSを開発したAppleと報告されている。そうすると、GoogleやAppleは背景で述べたとおり、寡占している状態であるため、指定事業者に含まれると考えられる。
(2) 禁止事項及び遵守事項
指定事業者の禁止事項及び遵守事項の概要は、下の図のとおりである。
(引用元:「「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」の成立について」(令和6年6月12日、公正取引委員会)別紙2https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/0102gaiyou.pdf)
図に記載があるように、スマホソフトウェア競争促進法5条から9条に禁止事項についての規定があり、10条から13条に遵守事項が規定されている。
禁止行為としては、取得したデータの不当な使用の禁止(5条)、個別アプリ事業者に対する不公正な取扱いの禁止(6条)、指定事業者の禁止行為(7条、8条、9条)が規定されている。どういった行為が「不公正な取扱い」に該当するのか(6条)、「妨げること」とは具体的に何か(7条、8条)、「正当な理由」とは何か(9条)については、今後議論されて、政令やガイドラインにより具体的に示されることとなっている。
遵守事項とされている、データの取得等の条件の開示に係る措置(10条)、取得データの移転に係る措置(11条)、特定ソフトウェアについての標準設定等に係る措置(12条)、特定ソフトウェアの仕様等の変更等に係る措置(13条)についても、具体的な内容については今後議論され、規則やガイドラインにより示されることとなっている。
そして、指定事業者は、上記規定を遵守するために講じた措置に関する事項、規定の遵守の状況の確認のために必要な事項などを記載した報告書を作成し、公正取引委員会に提出しなければいけない(14条1項)。そして、公正取引委員会は、事業者の秘密を除いて、報告書を公表しなければならない(同条2項)とされているため、報告書は公表される。
図に記載があるように、スマホソフトウェア競争促進法5条から9条に禁止事項についての規定があり、10条から13条に遵守事項が規定されている。
禁止行為としては、取得したデータの不当な使用の禁止(5条)、個別アプリ事業者に対する不公正な取扱いの禁止(6条)、指定事業者の禁止行為(7条、8条、9条)が規定されている。どういった行為が「不公正な取扱い」に該当するのか(6条)、「妨げること」とは具体的に何か(7条、8条)、「正当な理由」とは何か(9条)については、今後議論されて、政令やガイドラインにより具体的に示されることとなっている。
遵守事項とされている、データの取得等の条件の開示に係る措置(10条)、取得データの移転に係る措置(11条)、特定ソフトウェアについての標準設定等に係る措置(12条)、特定ソフトウェアの仕様等の変更等に係る措置(13条)についても、具体的な内容については今後議論され、規則やガイドラインにより示されることとなっている。
そして、指定事業者は、上記規定を遵守するために講じた措置に関する事項、規定の遵守の状況の確認のために必要な事項などを記載した報告書を作成し、公正取引委員会に提出しなければいけない(14条1項)。そして、公正取引委員会は、事業者の秘密を除いて、報告書を公表しなければならない(同条2項)とされているため、報告書は公表される。
(3) 禁止事項及び遵守事項に違反した場合
指定事業者が、禁止事項及び遵守事項を違反する事実があると思料するときは、「何人も公正取引委員会にその事実を報告し、適切な措置をとるべきことを求めることができる」(15条1項)とされている。そして、公正取引委員会は、調査をするために関係人若しくは参考人に出頭を命じて審尋、又は意見や報告書を徴すること、立ち入り調査などができる(16条1項)。
調査の結果、禁止事項に違反している場合は、排除措置命令(18条)や7条又は8条に違反している場合は、課徴金納付命令(19条)がなされる。課徴金は、違反行為に係る商品又は役務の売上額の20%となる。
また、禁止事項の違反行為によって利益を侵害され、または侵害されるおそれのある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生じるおそれのあるときは、指定事業者に対し、侵害の停止または予防を請求することができる(31条)。さらに、違反行為をした指定事業者は、被害者に対して、損害賠償の責任を負っており(32条1項)、これは無過失責任となっている(同条2項)。
遵守事項に違反している場合は、公正取引委員会は、指定事業者に対し、違反行為をやめるべきことや必要な措置を講ずべきことを勧告及び命令することができる(30条)。
調査の結果、禁止事項に違反している場合は、排除措置命令(18条)や7条又は8条に違反している場合は、課徴金納付命令(19条)がなされる。課徴金は、違反行為に係る商品又は役務の売上額の20%となる。
また、禁止事項の違反行為によって利益を侵害され、または侵害されるおそれのある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生じるおそれのあるときは、指定事業者に対し、侵害の停止または予防を請求することができる(31条)。さらに、違反行為をした指定事業者は、被害者に対して、損害賠償の責任を負っており(32条1項)、これは無過失責任となっている(同条2項)。
遵守事項に違反している場合は、公正取引委員会は、指定事業者に対し、違反行為をやめるべきことや必要な措置を講ずべきことを勧告及び命令することができる(30条)。
3 スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会の開催
2024年9月25日に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会」が設置され、第1回の検討会の開催は、同年9月30日に開催された。
検討会において、今後議論する主な事項については以下のとおりである。
検討会において、今後議論する主な事項については以下のとおりである。
(引用元:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会(第1回)(令和6年9月30日)資料2https://www.jftc.go.jp/file/1-2_smartphone_kaihourei.kentoujikou.pdf)
上記のとおり、スマホソフトウェア競争促進法は、公正かつ自由な競争の促進を図るという目的のため、指定事業者に対し、アプリストア間の競争制限等を禁止事項としている。しかし、禁止事項の例外としてセキュリティ・プライバシー・青少年保護その他政令で定める目的のために必要な措置については正当化事由とされている。
政令で定める目的追加により正当化事由として認められる範囲が広くなると、スマホソフトウェア競争促進法の定める禁止事項が機能せず、新規の特定ソフトウェアを扱う事業者は、従前と同様、算入することが困難となることが考えられる。
そのため、法律を制定したはいいが、結局は何も変わらないことにならないように正当化事由の設定については注意する必要がある。
上記のとおり、スマホソフトウェア競争促進法は、公正かつ自由な競争の促進を図るという目的のため、指定事業者に対し、アプリストア間の競争制限等を禁止事項としている。しかし、禁止事項の例外としてセキュリティ・プライバシー・青少年保護その他政令で定める目的のために必要な措置については正当化事由とされている。
政令で定める目的追加により正当化事由として認められる範囲が広くなると、スマホソフトウェア競争促進法の定める禁止事項が機能せず、新規の特定ソフトウェアを扱う事業者は、従前と同様、算入することが困難となることが考えられる。
そのため、法律を制定したはいいが、結局は何も変わらないことにならないように正当化事由の設定については注意する必要がある。
4 まとめ
規制対象となる事業者など具体的な内容については、政令や規則に任せているところがあるため、どこまでの効果が期待できるのかはまだわからない部分はあるが、AppleやGoogle以外の特定ソフトウェアを扱う事業者は、特定ソフトウェアの市場により参入しやすい状況にはなると考えられる。そのため、今後の政令や規則の制定については注目する必要がある。一方、様々な事業者が参入してくる弊害としてセキュリティの安全性が問題となってくるように思われる。そのため、毎月開催が予定されている検討会において、どのような議論がされていくのかを注目していきたい。