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BtoC取引における免責条項についての実務的留意事項

更新日:2024.09.26
弁護士
増田朋記
第1 免責条項とは
 免責条項とは、契約当事者の一方の責任を免除する旨を定めた契約条項のことです。このような条項は、契約締結後に生じる予期せぬ責任負担のリスクを回避することを目的として定められます。
 しかし、本来であれば負うべき責任を免除することは、損害を被った相手方当事者にとっては重大な不利益となります。とりわけ、消費者を相手方とするBtoC取引において、事業者が免責条項を置く場合には、この点が一層問題となり、消費者契約法では、免責条項は典型的な不当条項の一つとして規制されています。
 一方で、事業者の立場からすれば、不特定多数の消費者を相手方当事者とするBtoC取引においては、将来発生するリスクを回避したいとのニーズも強くあり、現実にも多くの場面で免責条項が用いられている状況がみられます。しかしながら、その実態をみると、法規制の現状が十分に理解されておらず、無効となる不当な免責条項が用いられている例も少なくありません。
 そこで、本稿では、BtoC取引における免責条項についての留意事項について解説したいと思います。
第2 消費者契約法による免責条項の規制
1 全部免責条項
「本施設の利用において生じた損害については一切賠償を行いません」
といったように、生じた損害の全てを免責する全部免責条項は、不当条項として無効となります(消費者契約法8条1項1号及び3号)。
 すなわち、少なくとも消費者契約においては、事業者が、「一切責任を負いません」として全ての責任を逃れる契約条項を置くことは許されません。
2 一部免責条項
「当社の負う損害賠償責任は○○円を限度とする」
といったように、損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負うことを内容とした免責条項を一部免責条項といいます。
 事業者に故意や重大な過失が認められる場合には、その帰責性が大きいことから、このような一部免責条項であっても不当条項として無効とされています(消費者契約法8条1項2号及び4号)。
 他方で、事業者に軽過失しか認められない場合について一部免責条項を定める場合には、消費者契約法8条には該当せず、必ずしも不当条項とはなりません。
 この場合でも、制限された範囲が不当に狭い(例えば、ごく僅かな上限額でしか賠償しない等)場合には、不当条項に該当し得ることになりますが、そうでなければ、有効な免責条項として定めることが可能となります。
 ただし、一部免責条項が軽過失の場合だけに適用されるということは、明確に規定しておく必要があります。
 例えば、
「当社は、法律上許される限り、1万円を限度として損害賠償責任を負います」
などと定めた場合、「法律上許される限り」というのは「軽過失の場合には」という意味であると解釈できそうですが、消費者にとっては明確でないため、令和4年の消費者契約法改正によって、このような範囲が不明確な免責条項も無効であるとされています(消費者契約法8条3項)。
 このような条項を定める際には、
「当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、1万円を限度として損害賠償責任を負います」
などといったように、軽過失の場合のみに適用があることを明らかにするように留意しましょう。
3 免責についての決定権限付与条項
「当社に責任があると認めた場合のみ、相当な損害を賠償します」
という条項や、
「当社の故意又は重過失によって損害が発生した場合、当社が相当と認めた限度において損害を賠償します」
などと定めた場合には、一見すると賠償責任を認める条項であって不当な免責条項にあたらないように思えますが、これらの条項も消費者契約法により無効とされる不当条項に該当します(消費者契約法8条1項)。
 責任の有無や範囲について事業者側に決める権限があることとされているため、事業者の判断によって、実質的に全部免責条項や不当な一部免責条項と同じ結果をもたらすことが可能となってしまうからです。
第3 実務的な留意事項
 免責条項に関する実務的なニーズの一つとして、避けがたいサービスの提供不能などの事態に備えたいというものがあります。
 例えば、インターネット上のサービスにおいては、その性質上、通信障害や機器のトラブルによって、サービスの提供が不能となる事態も、ある種避けがたいものといえます。
 こうしたサービスを提供する事業者としては、そのような不測の事態に備え、あらかじめ免責条項を定めておくことでそのリスクを避けようと考えがちですが、上記の消費者契約法上の規律を踏まえれば、軽々に免責条項を使用することは得策とは言えません。
 このようなケースでは、そもそもそのような不測の事態が発生した場合に、事業者の責任が発生するのかということを改めて考える必要があります。
 すなわち、事業者においてはコントロールできない領域において発生した障害が原因となり、サービスの提供が不能となった場合には、そもそも帰責性が認められず、免責条項を規定するまでもなく、責任が発生しないと考えられる可能性があります。
 このような観点から対策を考えるとすれば、そもそもの債務の内容を明確にして、債務不履行の該当性の問題を明らかにしておくという方向での検討が有用かと思われます。
 例えば、
「当社の責に帰すべき事由以外の原因により発生した停電・通信障害・システム不具合・サーバーの緊急メンテナンスの発生などによりサービスの提供が不能となった場合には、当社はその損害を賠償する責を問われません。」
などと定め、サービスの提供不能が直ちに債務不履行となるわけではないことを明確にしておくということが考えられます。
 ただし、損害賠償の免責ではなく、サービスの提供が不能となった場合の対価を保持できるかという問題は別途の検討が必要となります。
第4 終わりに
 将来発生するリスクを回避するというのは、契約条項を定める本質的な目的の一つであり、その意味で免責条項は、契約条項を設定する上で、必ず問題となる条項といってもよいと思います。
 しかし、近年では、消費者側も不当な条項の使用については批判的に捉えるようになっており、不当な条項を使用していれば、それが無効となるリスクのみならず、レピュテーションリスクも致命的なものとなり得ます。
 このような観点から、消費者からの非難・請求というリスクを軽々に免責条項によって回避しようと考えるのではなく、事業者として何ができ、何ができないのか、その点を契約の時点で明白なものとし、これを消費者に説明した上で遂行するということを考えて行く必要があります。
 手間がかかるように思いますが、結局のところ事業上のリスクヘッジとしての有効性は、安易に免責条項を定めるよりも格段に向上するように思われます。