第1 はじめに
スマートフォンの普及、通信技術の発達等の事情を背景に、老若男女問わず、Social Networking Service(以下、「SNS」という。)を利用している人が増えている。SNSとは、「登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのこと」と定義するのが一般的である。現時点でも様々なサービスがあり、複数のSNSを利用して、オンラインで他者と交流している人は多数存在している。
このようにSNSでは、自らの意見を広く社会に発信できる。単に発信するだけでなく、他者が発信した意見(投稿)を引用しながら、自らの見解を発信することも簡単にできる。
本稿は、Twitterにおけるリツイートが不法行為にあたると認定された事例を確認し、今後のSNSを利用する際の注意点を考えていくことを目的とする。
ここでいう「リツイート」とは、Twitter上、他者のツイート(投稿)を自らが再投稿する機能のことで、ツイートを単に投稿するだけの場合と、何らかの意見を付記して再投稿する場合(引用リツイート)とがある。
なお、本稿作成時点でTwitterはXへと名称変更されているが、ここでは、従来どおりのTwitterでの用語を前提とする。
このようにSNSでは、自らの意見を広く社会に発信できる。単に発信するだけでなく、他者が発信した意見(投稿)を引用しながら、自らの見解を発信することも簡単にできる。
本稿は、Twitterにおけるリツイートが不法行為にあたると認定された事例を確認し、今後のSNSを利用する際の注意点を考えていくことを目的とする。
ここでいう「リツイート」とは、Twitter上、他者のツイート(投稿)を自らが再投稿する機能のことで、ツイートを単に投稿するだけの場合と、何らかの意見を付記して再投稿する場合(引用リツイート)とがある。
なお、本稿作成時点でTwitterはXへと名称変更されているが、ここでは、従来どおりのTwitterでの用語を前提とする。
第2 事案の紹介
リツイートを違法と判断した最近の事例(東京高判令和4年11月10日裁判所ウェブサイト)を題材とする。
本件は、被告AによるTwitter上に投稿したツイートが原告の名誉を毀損したといえるかどうか、というツイート自体の不法行為の成否だけでなく、被告Aの元ツイートをコメントを付さずに投稿した被告B、Cのリツイートについても不法行為にあたるかどうかが問題となった事案である。
ここではリツイートの違法性の判断に限って整理する。
本件は、被告AによるTwitter上に投稿したツイートが原告の名誉を毀損したといえるかどうか、というツイート自体の不法行為の成否だけでなく、被告Aの元ツイートをコメントを付さずに投稿した被告B、Cのリツイートについても不法行為にあたるかどうかが問題となった事案である。
ここではリツイートの違法性の判断に限って整理する。
第3 原審(東京地判令和3年11月30日裁判所ウェブ サイト)の判断
1 被告Bの主張の骨子
被告Bは、普段からテレビをほとんど見ておらず、原告指摘のインターネット番組も見ていないため、リツイート時点で、関連して問題となっている別の訴訟の存在を知らず、原告の経歴も把握していなかったのであり、リツイートには、原告の社会的
評価の低下及び原告の名誉感情を侵害する意図がなく、単にツイートの保存を目的としたものにすぎない、として不法行為の成立を争った。
評価の低下及び原告の名誉感情を侵害する意図がなく、単にツイートの保存を目的としたものにすぎない、として不法行為の成立を争った。
2 被告Cの主張の骨子
被告Cは、自身のフォロワーは、歴史や漫画などのネタに興味を抱く人々であって、原告に対して関心を持つ人々ではなく、思想的に中立的な立場から、上記のような無関心層のフォロワーに対し、漫画ネタの一つとしてリツイートして情報を提供したにすぎない。本件では、原告の主張内容のみならず別訴訟の他方当事者である相手方の主張内容も公共的・公益的に極めて重要であり、それをフォロワーに提供することは重要な意味を持つ。何らのコメントも付加せずに元ツイートをそのまま引用するリツイートは、フォロワーへの情報提供という観点から、元ツイートとは別個の表現行為であって、原告
の名誉を毀損しない。
また、名誉毀損については、表現行為が公共の利害に関する事実に関するものであり、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるときは、違法性が阻却されて不法行為が成立しないというべきである。そして、被告Cのリツイートは公共的・公益的議論に資する情報を提供す
るものであるから、不法行為に該当しない。
の名誉を毀損しない。
また、名誉毀損については、表現行為が公共の利害に関する事実に関するものであり、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるときは、違法性が阻却されて不法行為が成立しないというべきである。そして、被告Cのリツイートは公共的・公益的議論に資する情報を提供す
るものであるから、不法行為に該当しない。
3 原審裁判所の判断
(1) 判断基準
ツイッターにおいて、投稿者がリツイートの形式で投稿する場合、当該投稿者が、他者の元ツイートの内容を批判する目的等でリツイートするのであれば、何らのコメントを付加しないことは考え難く、当該投稿者の立場が元ツイートの投稿
者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメン
トを付すことが通常であると考えられる。
そうすると、ツイッターが、140文字という字数制限があり、その利用者において、簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定されるSNSであることを考慮しても、コメントの付されていないリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者において、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当であるというべきである。
者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメン
トを付すことが通常であると考えられる。
そうすると、ツイッターが、140文字という字数制限があり、その利用者において、簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定されるSNSであることを考慮しても、コメントの付されていないリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者において、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当であるというべきである。
(2) 事例へのあてはめ
被告Bは、コメントを付すことなく、リツイートを投稿し、被告Bのリツイートの前後のツイートに、被告Bがツイートを引用した意図が読み取れるようなものはうかがわれないから(むしろ、被告Bは、被告Aを勇気ある表現活動をする者として称賛している。)、同リツイートで引用された引用元のツイートの内容は、被告Bによる、引用元のツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告B自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告Bは、同リツイートの行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。
また、被告Cについては、元のツイートは、その投稿者である被告Aも原告の本訴外の相手方の主張の提供であると位置づけておらず、そのような表示もなく、原告の相手方の主張を的確に反映したものであるとも認められない。また、被告Cは、原告の性被害ないし原告についてのツイートを何度もリツイートし、原告代理人から、本件訴訟提起の連絡を受けてからも原告に批判的なツイートを複数回リツイートしているのであり、被告Cのリツイートは、その前後の投稿を見ても、
漫画ネタの一つとしてしたものとはいえず、元ツイートの内容に賛同する表現行為としてなされたと認められる。
なお、被告Cは、違法性阻却事由の主張をするが、当該主張以上に具体的な主張及び立証をしていないため、被告Cのリツイートが違法性を欠くと認めることはできない。
以上より、被告B、Cはいずれも不法行為責任を負うと判断した。
また、被告Cについては、元のツイートは、その投稿者である被告Aも原告の本訴外の相手方の主張の提供であると位置づけておらず、そのような表示もなく、原告の相手方の主張を的確に反映したものであるとも認められない。また、被告Cは、原告の性被害ないし原告についてのツイートを何度もリツイートし、原告代理人から、本件訴訟提起の連絡を受けてからも原告に批判的なツイートを複数回リツイートしているのであり、被告Cのリツイートは、その前後の投稿を見ても、
漫画ネタの一つとしてしたものとはいえず、元ツイートの内容に賛同する表現行為としてなされたと認められる。
なお、被告Cは、違法性阻却事由の主張をするが、当該主張以上に具体的な主張及び立証をしていないため、被告Cのリツイートが違法性を欠くと認めることはできない。
以上より、被告B、Cはいずれも不法行為責任を負うと判断した。
第4 高裁の判断
1 当事者の主張
これに対し、被告Cは不服があるとして控訴した。控訴審において、原審被告=控訴人Cは元のツイートは原審原告=被控訴人の名誉を毀損するものではなく、しかも、一部の元ツイートには、真実性の証明があったものといえ、少なくとも真実性を基
礎付ける相当の資料があった旨を主張して争った。
礎付ける相当の資料があった旨を主張して争った。
2 裁判所の判断
控訴人Cのこれまでのリツイート状況に照らすと、控訴人Cのリツイートが原審被告Aへの賛同の趣旨を伴わない単なるフォロワーへの情報提供として行われたものと解することはできず、仮に専ら情報提供の趣旨でリツイートをするのであればその旨のコメントを付すことは十分に可能であったにもかかわらず、特にコメントを付していない以上、閲読者において、控訴人Cが引用元のツイートに賛同したものと解するのは自然なことである。また、ツイッターの性質上、不特定多数人の閲覧による情報の拡散や流通を防ぐことはできず、閲読者が制限されるものではなく、このことは、仮に控訴人Cのツイートのフォロワーの関心に一定の傾向があったとしても同様である。
また、一部の元ツイートについても、真実性の証明があったとみる余地はなく、控訴人Cが摘示事実を真実と信じるにつき相当の理由があったということもできない。
以上より、控訴人Cのリツイートの違法性を認め、不法行為責任を認めた原審の判断を維持した。
また、一部の元ツイートについても、真実性の証明があったとみる余地はなく、控訴人Cが摘示事実を真実と信じるにつき相当の理由があったということもできない。
以上より、控訴人Cのリツイートの違法性を認め、不法行為責任を認めた原審の判断を維持した。
第5 検討
上記判決内容を前提とすると、SNS利用者は、他人の名誉を毀損するような投稿を、自分の意見を付さずに単に引用することは、不法行為にあたりうることを認識する必要がある。
そうすると、問題は、引用する元の投稿が他人の名誉を毀損するかどうかの判断が難しい場合である。元の投稿に違法性がないと判断されれば、引用は問題ないこととなる。ところが、後日、元の投稿が違法性ありと判断された場合、引用時点では違法の判断が難しいゆえに、安易な引用がなされてしまうことが十分にあり得るからである。
上記判決からすると、元の投稿を単に引用した場合、元の投稿について真実性の証明がなされるか、真実であると信じるにつき相当の理由があったということを立証できなければ、引用した者に不法行為が成立することになる。引用者が立証責任を負うことからすると、そのハードルは相当高く、安易な引用では違法性が阻却されない可能性が高い。
そのため、SNS利用者は、他人の投稿内容を単に引用する場合、元の投稿が他人の名誉を毀損していないかどうか等、その内容を十分吟味する必要があるのであって、安易な引用は避けるべきであることを認識しなければならない。もし、投稿に賛同する趣旨ではなく、別の観点、例えば批判的な観点から引用を行いたいのであれば、引用時にコメントを付する等の対策が必要となろう。
上記判決は、SNSにおいて一部の投稿が安易に引用され際限なく拡散していくことについて、警鐘を鳴らしているものと捉えるものである。
そうすると、問題は、引用する元の投稿が他人の名誉を毀損するかどうかの判断が難しい場合である。元の投稿に違法性がないと判断されれば、引用は問題ないこととなる。ところが、後日、元の投稿が違法性ありと判断された場合、引用時点では違法の判断が難しいゆえに、安易な引用がなされてしまうことが十分にあり得るからである。
上記判決からすると、元の投稿を単に引用した場合、元の投稿について真実性の証明がなされるか、真実であると信じるにつき相当の理由があったということを立証できなければ、引用した者に不法行為が成立することになる。引用者が立証責任を負うことからすると、そのハードルは相当高く、安易な引用では違法性が阻却されない可能性が高い。
そのため、SNS利用者は、他人の投稿内容を単に引用する場合、元の投稿が他人の名誉を毀損していないかどうか等、その内容を十分吟味する必要があるのであって、安易な引用は避けるべきであることを認識しなければならない。もし、投稿に賛同する趣旨ではなく、別の観点、例えば批判的な観点から引用を行いたいのであれば、引用時にコメントを付する等の対策が必要となろう。
上記判決は、SNSにおいて一部の投稿が安易に引用され際限なく拡散していくことについて、警鐘を鳴らしているものと捉えるものである。