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電子契約についてのQ&A 4

更新日:2024.01.15
弁護士
増田朋記
Q1. 契約の締結について電子契約によることが認められない場合はあるのでしょうか。
A1. 任意後見契約書や事業用定期借地権設定のための契約書などは、公正証書が必要となるため、現在のところ電子契約によることができません。
【解説】
契約の中には、法律によって公正証書によってすることが求められる場合がある。例えば、任意後見契約については、任意後見契約に関する法律第3条において「任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。」とされている。

また、事業用定期借地権の設定を目的とする契約も、借地借家法第23条3項において「公正証書によってしなければならない」と定められおり、企業担保権の設定又は変更を目的とする契約も同様である(企業担保法3条)。

そして、公正証書作成に係る一連の手続については、将来の紛争予防という公証制度の目的に鑑み、当事者の意思を慎重に確認することで証書の高度の証拠力を確保するという観点から、書面・押印・対面を求める厳格な手続が設けられている。

したがって、現在のところ、公正証書によってすることが求められる契約については、電子契約によることはできない。

もっとも、「規制改革実施計画」(令和4年6月7日 閣議決定)において、「法務省は、公正証書の作成に係る一連の手続について、公証役場における業務フローを含め抜本的な見直しを行うとともに、デジタル技術の進展等に応じて継続的な公証制度及び公証役場の業務改善が可能となるような規律を検討するなど、デジタル原則にのっとり必要な見直し及び法整備を行う。

また、引き続き書面・対面で公正証書を作成する場合についても、署名や押印の必要性を含め、公証役場における業務フローを幅広く検証し、デジタル技術を活用して利便性が高く効率的な仕組みができないか検討する。」こととされ、「(前段)令和4年度中に検討・結論を得て、令和5年の通常国会に法案提出、令和7年度上期の施行を目指す、(後段)令和4年度中に検討、一定の結論を得る」とされており、公正証書の電子化についても既にその実現に向けて検討の途上にある。
Q2. 保証契約については、口頭での契約は認められず、契約書がなければ効力が生じないと聞きました。このような契約についても電子契約によることができるのでしょうか。
A2. 確かに保証契約は、書面でしなければその効力が生じません。もっとも、「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたもの」とみなされることとなっています(民法446条3項)ので、電子契約によることも可能です。
【解説】
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して、相手方がこれを承諾をしたときに成立し、法令に特別の定めがある場合を除き、口頭、書面の作成などの締結方法は問わないのが原則である(Q1-1参照)。

しかしながら、保証契約については、保証を慎重かつ確実にさせるという趣旨から、書面でしなければ効力が生じないものとされている(民法446条2項)。

もっとも、民法において「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。」と定められており(民法446条3項)、紙の書面ではなく電磁的方法による場合も書面によってされたものとみなされるため、書面を必要とする保証契約においても電子契約によることが可能である。

なお、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約については、契約締結に先立って、保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思の表示について公正証書を作成しなければならない(民法465条の6)。この公正証書の作成については現時点では電磁的方法によることができないことに留意する必要がある。
Q3. 契約自体は電子契約によることできても、重要事項説明書などについては業法上の書面の交付義務があると思いますが、これらの書類も電子化できるのでしょうか。
A3. 法改正によって、交付義務が定められた書面についても電子化が許容されることとなりました。ただし、多くの場合に相手方の承諾や希望が要件とされている点に留意する必要があります。
2021年5月12日、社会全体のデジタル化を目指し、デジタル改革関連法と呼ばれる6つの法律が成立した。これを受けて、デジタル庁が設置され、デジタル化に関するさまざまな政策が推進されることになった。

その政策の一つが押印・書面の交付等を求める手続の見直しである。デジタル改革関連法の一つである「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)(いわゆるデジタル社会形成整備法)によって、押印を義務付ける22の法律と書面の交付を義務付ける32の法律(重複があるため合計48の法律)が一括して改正され、押印を求める各種手続についてその押印を不要とするとともに、書面の交付等を求める手続について電磁的方法により行うことが可能とされた。

交付書面の電子化については、2001年に施行された「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(いわゆるIT書面一括法)によって既に一定の場合に認められていたが、不動産関係など、依然として書面でなければならないものが残されていた。その後、デジタル社会形成整備法によってほとんどの書面について電磁的交付が認められるに至ったものである。

例えば、宅地建物取引業者が媒介契約締結後に遅滞なく交付しなければならない書面(宅地建物取引業法34条の2)、定期借地権の設定や定期建物賃貸借における契約に係る書面(借地借家法22条、38条)などについても電磁的方法による交付が認められている。

もっとも、建築請負契約の契約書(建設業法19条3項)、旅行契約の説明書面(旅行業法12条の4、12条の5)のように、電磁的交付には相手方の承諾を得ることを要件とする場合や、労働条件通知書面(労働法15条1項)のように相手方が希望したことを要件とする場合もあり、必ずしも一方的に電磁的方法によって交付することができるわけではないことに注意する必要がある。

なお、デジタル社会形成整備法は、原則として技術的な改正で足りるものが対象とされ、消費者・弱者保護や紛争予防の観点等から書面とすることに意義が認められるものは対象としないこととされたため、訪問販売等の特定商取引法によって義務付けられた書面交付は電子化の対象に含まれなかった。

その後、特定商取引法については別途成立した、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年法律第72号)によって改正されることとなり、契約締結時等に交付すべき書面の交付について、消費者の承諾を得た場合に限り、例外的に契約書面等に代えてその記載事項を電磁的方法により提供することができることとされた。

その承諾の取り方や電磁的方法による提供の在り方は政省令に委ねられることとされており、デジタル社会形成整備法により電子化が進められた他法とは別途の考慮がなされている点に留意すべきである。