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電子契約についてのQ&A

更新日:2022.12.23
弁護士
二本松利忠
Q1.今まで紙の契約書で締結してきた契約を電子データ上のやりとりで行うことは可能ですか。
A1.紙の契約書を作成することなく、電子データ上のやりとりによって契約を締結することが可能です。
【解説】
法律上、契約は、原則として、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して、相手方がこれを承諾したときに成立し(このように当事者の合意だけで契約が成立することを「諾成主義」という。民法522条1項)、法令に特別の定めがある場合を除き、口頭、書面の作成などの締結方法は問わない(契約自由の原則の一内容である「方式の自由」。同条2項)。

したがって、法令で書面の作成等が義務づけられている一部の類型を除き、電子データ上で申込みとこれに対する承諾を行うことにより契約を成立させること(電子契約の締結)も可能である。

しかし、法令によって書面の作成が要求されていない場合でも、従来から、実際の取引、特に、企業間取引、不動産取引、金融機関による貸付等においては、契約書(書面)を作成してそこに署名したり記名押印をすることが通例であった。
これは、①契約意思の確認(真意性の確保)、②軽率な契約締結の防止、③契約内容の明確化、④後に紛争が生じた場合の証明機能などの契約書の機能が考慮されてのことである。

このようなことから、これまで書面によって契約を締結していた分野の取引については電子契約の普及が遅れていたが、電子契約のメリットについての理解が進み、一方で、電子署名及び認証業務に関する法律その他の関連法規の制定、書面作成や押印を不要とする領域の拡大などの法的環境の整備、電子署名・電磁的記録の偽造・改ざん防止等の技術的基盤の整備などの進展を背景に、働き方改革、リモートワークの推進といった社会的要請にも後押しされて、多くの企業において、これまで契約書が作成されてきた類型の契約についても電子契約の利用が拡大しつつある。
Q2.電子契約とはどのようなものをいうのですか。
A2.電子契約とは、広義では、電子データ上のやり取りによって締結する契約一般を指しますが、狭義では、このうちの契約当事者が電子署名等を用いて締結する電子契約を指します。
【解説】
電子契約は、広義では、口頭でもなく書面でもなく、電子データ上で申込みと承諾の意思表示のやり取りをすることによって締結する契約のことをいう。このような電子契約は、インターネットのウェブサイトで買い物をする場合(ネット通販等)など、既に広く行われている。

一方、Q1で述べたとおり、合意の明確化が必要な取引であったり、金額が大きく慎重を期するような契約などの一定の重要な契約については、契約書の機能が重視され、契約書に署名又は記名押印をする方式が依然として多くを占めていた。
しかし、近年は、これらの契約についても、契約当事者が電子署名等を用いて締結する電子契約(この場合、契約書に代わるものとして電磁的記録が保存される。)が利用されるようになっており、これが狭義の電子契約と呼ばれるものである。現在、企業で導入が検討されているのは、このタイプの電子契約である。
Q3.電子契約は、紙の契約書を作成して行う契約と効力に違いはあるのですか。また、電子契約で取引をした場合、後になって相手方との間で契約は締結していないとか契約の内容が異なるなどという紛争が生じたときに、十分に対応することは可能ですか。
A3.電子契約による場合と紙の契約書による場合とで法的効力の面で違いはありません。また、電子契約の場合でも、後になって相手方との間で合意の有無や契約内容等について争いが生じても、紙の契約書を作成したときと同様の対応が可能です。
【解説】
電子契約については、基本的に、紙の契約書によってなされた契約(書面契約)とまったく同様の法的効力が認められる。
例えば、商品の売買契約について、紙の契約書によって契約した場合でも、電子契約によった場合でも、売買契約の効力(売主の商品引渡義務と買主の代金支払義務の発生)は同じである。

このように電子契約と書面契約とで法的効力に差はないにもかかわらず、重要な取引については、電子契約は選択されず、従来どおりの契約書を作成して署名又は記名押印(特に慎重を期する場合は、実印を押印して印鑑証明書を添付する運用が行われる。)する締結方法がとられることが多かった。これは、Q1で述べた契約書の機能が考慮されてのことであるが、そのうちの契約書の証明機能は特に重要なものと考えられてきた。
それは、後日、相手方との間で、自分は契約していないとか、契約内容が異なるなどの争いが生じた場合、以下のとおり、契約書には証拠として高い価値が認められる上、押印がなされていることによる立証負担の軽減(「二段の推定」)が認められているからである。

まず、契約書は、処分文書(証明すべき法律上の行為がその文書によって行われたことを示す文書)であり、その「成立の真正」(意味は後述のとおり)が認められると、当事者が契約書に記載された法律行為をしたこと(すなわち、契約書に記載された内容で合意をしたこと)が認められる。このように、成立の真正が認められた契約書については、訴訟において高い証明力(「実質的証拠力」とか「証拠価値」ともいう。)が認められる。

次に、民事訴訟において、契約書等の文書を証拠として提出する場合は、当該文書が作成者の意思に基づいて作成されたこと(文書が真正に成立したこと)が必要とされる(民事訴訟法228条1項)。そして、その立証の負担を軽減するため、契約書等の私文書については、本人の署名又は押印があるときは、成立の真正が推定される(同条4項)。
ここでいう本人の押印があるときとは、本人の意思に基づいて押印されたことを意味するところ、押印された印影が本人の印章(ハンコ)によって顕出されたものと認められるときは、反証のない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたもの(真正に押印されたこと)が事実上推定される(最判昭39.5.12民集18巻4号597頁等)。
これは、印章は大切に保管されているのが通常であるので、文書に本人の押印がされているということは、本人の意思に基づいて押印されたものである(無断で他人が押印したとは考えにくい。)という経験則が働くからである。
こうして、契約書に本人の印章による印影の顕出があるときは、押印が本人の意思に基づくものと事実上推定され(一段目の推定)、その結果、同条4項により、当該契約書の成立の真正、すなわち、当該契約者は本人の意思に基づいて作成されたものと推定される(二段目の推定)。

上記のとおり、従来は、契約書の証明機能が重視されてきたが、電子契約の場合でも、訴訟上、電子契約が記録された電磁的記録は当然に証拠として取り扱われるところ(証拠方法の無制限)、所定の要件を満たした電子署名について電磁的記録の成立の真正が推定される(さらに、認定認証事業者による認定認証がされた電子署名については、実印による押印プラス印鑑証明書添付と同等の効力が付与される。)。
このように、電子契約についても、契約書を作成した場合と遜色のない取扱いがなされるようになっており、したがって、電子契約によったとしても証明機能の点で問題はないといえる。
Q4.電子契約にはどのような種類がありますか。
A4.どのような電子署名方式をとるかによって、契約当事者が自ら電子署名を行うタイプの当事者署名型電子契約と、事業者が電子契約サービスの提供として電子署名を行うタイプの事業者署名型電子契約があります。
【解説】
電子契約には、契約当事者が自ら電子署名を行うタイプの当事者署名型電子契約と、事業者が電子契約サービスの提供として電子署名を行うタイプの事業者署名型(「第三者認証型」ともいわれる。)電子契約があり、従来は当事者署名型電子契約が主なものであったが、近年、電子契約サービスを提供する業者が増加し、当事者署名型電子契約による場合よりも利便性に優れた多種多様なサービスを提供するようになったことから、事業者署名型電子契約の利用が増えている。

なお、電子契約については、取引の相手方が誰であるかという観点から、「クローズド型」と「オープン型」と分類されることがある。
クローズド型の電子契約は、契約を締結する相手方が既知の者(例えば、実績のある取引先)である場合であり、本人性や権限の有無等について必ずしも厳格な確認を必要としないケースである。
これに対し、オープン型の電子契約は、契約を締結する相手方が既知の者でない場合であり、高リスク取引として、本人性や契約締結権限等について厳格な確認が要求される。
この分類は、取引リスクの大小に応じて、本人確認の手段・程度、当該取引を行う権限の調査・確認方法、これらの情報の記録・保存の程度・方法、利用すべき電子署名・電子契約サービス等を検討する上で参考になる。