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取引DPF消費者保護法の内閣府令、指針案の解説

更新日:2022.03.25
弁護士
志部淳之介
1 新法の成立と内閣府令等の整備
 令和3年5月10日、取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(同法は、取引DPF消費者保護法と略されるが、本稿では、「新法」という。)が成立した。新法は、デジタルプラットフォーム上での違法商品の流通など、不適切な事例に対応するための環境整備を目的とする法律である。細目は政省令に委任されているところ、このたび令和4年2月24日付けで内閣府令案及び指針案の成案が公表された。
 特に,指針案は,実務において必要な対応が具体的に記載されているため重要である。今後,事業者としては可能な限り,指針案に従った対応が求められる。
 内閣府令,指針案の施行日は,令和4年5月1日である。
2 内閣府令について
 新法では、消費者から開示請求があった場合に、デジタルプラットフォーム提供者は、一定の要件の元に販売業者等情報の開示をすることとなる(新法第5条)。(*1)内閣府令では、開示請求できる債権額が1万円を超える場合とされている点に注意が必要である(内閣府令第4条)。
3 指針案について
 実務的に重要なのは、指針案である。新法は、取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務として、

 ① 消費者が販売業者等と円滑に連絡できるための措置
 ② 消費者からの苦情に係る事情の調査等、表示の適正確保に必要な措置
 ③ 販売業者に対して、所在情報をはじめ、その特定のために必要な情報(身元確認情報)を提供させること

に努めるべき旨を定める(新法第3条)。
 指針案は、新法第3条に規定する取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、必要な事項を定めたものである。この指針案の法的な位置づけであるが、まず指針案に従わなかった場合の罰則等のペナルティは存在しない。ただし、デジタルプラットフォーム提供者が、自身のサイトで問題行動をとる業者を把握しつつ長期間放置していた場合等は損害賠償責任を負う可能性がある。この損害賠償請求をされた場合に、指針案に沿った適切な対応をしていたか否かが、違法性判断や責任判断に影響を与えることがあると思われる(指針案に沿った対応をしていたことは、責任を否定する要素となるであろう)。
 以下では、具体的に事業者に求められる対応のうち、特に重要と思われる点をみていくこととする。
(1) 消費者が販売業者等と円滑に連絡することができるようにするための措置(新法第3条第1項第1号関係)
 基本的な取組として、

 ① 連絡先や連絡手段が、消費者が容易に認識することができるような文字の大きさ・方法をもって、
  容易に認識することができるような場所に示されていること、

 ② 消費者が合理的な期間にわたり、社会通念に照らして相当な時間帯において、
  必要に応じ販売業者等と連絡が取れるようにすること

を求めている。
 また、望ましい取組の具体例として、以下のものが示されている。法に従った表示をしていない販売業者がいる場合には対応が必要である。また、可能な限り定期的にパトロールを行い、表示されている連絡先が正しく機能しているかを確認することが望ましいとされている。
ア 販売業者等の連絡先の表示の徹底
 ⅰ 特商法第11条の販売業者等の氏名・住所等の表示義務の遵守に資するため、
   取引デジタルプラットフォーム内に販売業者等向けの専用ページを設けること。

 ⅱ 販売業者等が、特商法第11条の規定により取引デジタルプラットフォームの
   「場」に連絡先を掲載しない場合は、消費者からの請求があり次第、
   連絡先を記載した書面又は電磁的記録を遅滞なく提供する旨の表示をするよう徹底すること。

 ⅲ 販売業者等に対して、連絡先に加え、対応可能日時も記載するよう義務付けること。
イ 連絡手段が機能しているか否かの確認
ⅰ 販売業者等が表示する連絡先が連絡手段として現に機能していることを確認するため、
  取引デジタルプラットフォーム提供者が定期的なパトロールを実施すること。

ⅱ 消費者からの情報受付窓口を設置して販売業者等への連絡の可否に関する情報を収集すること。
ウ 連絡手段が機能しない場合の取引デジタルプラットフォーム提供者の対応
ⅰ 消費者からの連絡に対して、一定期間販売業者等から返信がない場合は取引デジタルプラットフォーム提供者が回答
  を促すこと。
ⅱ 消費者から、販売業者等への連絡手段が機能しないとして取引デジタルプラットフォーム提供者に問合せがあった
  場合の内部的な標準処理期間を設けること。

 以上のように、連絡先が機能しているかの確認と、機能していないことを把握した場合の適切な措置をとることが望ましいとされている。
(2)消費者から苦情の申出を受けた場合の販売条件等の表示の適正を確保するための措置(新法第3条第1項第2号関係)
ア 消費者からの苦情の申出の受付
ⅰ 購入した商品等に関する苦情であれば注文(取引完了)確認画面又はメールに、購入前の商品等に関する苦情
  であれば商品ページごとに苦情申出のためのリンクを貼る等、消費者にとって分かりやすい場所、
  分かりやすい方法で受け付けられるようにすること。
ⅱ 申出を受け付けた旨及び当該申出への対応について申出を行った消費者に対し回答すること。
ⅲ 苦情の申出の受付を購入後に限定せず、疑義情報の通報という形式等により購入前の苦情の申出も受け付けること。
イ 不適正な表示を行った販売業者等への対応
ⅰ 利用規約に基づき状況に応じた比例的な制裁を行うこと。
ⅱ 違反の状況等の記録を蓄積し、利用規約の改定等の予防措置の改善に活用すること。
(3)販売業者等の特定に資する情報の提供を求める措置(本法第3条第1項第3号関係)
 基本的な取組として、取引デジタルプラットフォーム提供者が、販売業者等の表示について問題のおそれのある事例に接した場合に、販売業者等に対し、その特定に資する情報(販売業者等の身元の特定につながり得るあらゆる形式の情報)の提供を求めることが必要とされている。
 また、必要な情報をより円滑に求めることができるよう、アカウント登録時に、販売業者等の特定に資する情報の提供を求めることや、日常的な監視活動を通じて情報が疑わしい事例に接した場合に販売業者等に対し裏付けの資料を求めること、などが期待されている。
 望ましい取組の具体例としては、以下のものが示されている。
ⅰ アカウント登録に当たり、法人であれば当該法人自らの法人番号又は登記事項証明書等、
  個人事業主であれば当該個人自らの住民票や事業証明書等の情報及び公的書類の提出を受けること。
ⅱ 販売業者等の氏名又は名称が、登録された銀行口座の名義と一致しているか確認すること。
ⅲ 商品の販売等に許認可等が必要である場合には、許認可等を受けた旨の証明書の提出を受けること。
ⅳ 取引の過程において登録情報と異なる情報に接したときは、個別に事実確認を行い、正しい情報の記載を求めること。
4 まとめ
 以上のように、指針案では、ベストプラクティスという形で事業者に求められる内容が具体的に記載されている。これらは、努力義務の指針ではあるが、義務を怠り長期間放置しているような場合には、企業評価や、損害賠償法上の違法評価に影響することも考えられる。事業者としては、コンプライアンスの観点から、自社がベストプラクティスに記載された内容を実践できているか見直す必要があろう。
*1 消費者が自己の債権を行使するために、販売業者等の氏名又は名称、住所その他権利行使に必要な情報(内閣府令で定められる)の確認をする必要がある場合に、販売者情報の開示を求めることができる制度である(新法第5条第1項)。