OUR VIEWS

ディープフェイクポルノ被害者の個人的法益保護に関する現行法の規制について

更新日:2026.02.09
    弁護士 岡田圭太
    1 はじめに
     近年の生成AIの発展による画像加工技術の発達には目覚ましいものがある。その象徴として、一般人の間でも、生成AIを利用した画像生成が普及し始めており、AI技術を使用して実在する人物の偽の性的な画像・動画が作成されるなど、生成AIの悪用例が見られるようにもなった。
     このようにAI技術を使用して生成された実在する人物の偽の性的な画像・動画は一般にディープフェイクポルノと呼ばれる。生成AIが発展する以前も、アイドル等の写真を切り抜き・合成し、当該アイドル等が別の状況に置かれている写真のように作り替える、アイドルコラージュというものがあった。しかし、アイドルコラージュと比較して、ディープフェイクポルノの方が容易かつ精巧に作成される点で従来のものとは大きく異なる。さらに、インターネットの普及により、一般人が、作成したディープフェイクポルノをインターネット上で公開する事案も増えている。実際に、学生の間では、好意のある異性の顔写真を利用したディープフェイクポルノを友人等に公開した事案もある。
     ディープフェイクポルノの作成、公開が一般人にも容易になったということは、ディープフェイクポルノの作成のためにその容貌を用いられるという被害が広がりやすくなったことを意味する。自らの容貌を用いられ、作成されたディープフェイクポルノを知らぬ間に公開された被害者の苦しみは計り知れないものであり、ディープフェイクポルノの悪用を予防するためには、民事上の事後的な救済だけでなく、刑事法の一般予防の観点からの方策も検討されるべきである。
     この点、ディープフェイクポルノを作成・公開した加害者がサーバー内のフェイクポルノを誰でも閲覧可能な状況にした場合、加害者はわいせつ物頒布罪(刑法175条)に問われ得る。しかし、わいせつ物頒布罪は社会的法益を保護するものであり、被害者自身の法益を直接保護するものではない。それでは、現行法において、ディープフェイクポルノの被害者自身の個人的法益が保護される余地があるといえるのか。
     本稿では、ディープフェイクポルノの作成のために容貌等を用いられた被害者を念頭に置き、まずはディープフェイクポルノについて、名誉を保護法益とする名誉毀損罪の成否を簡単に分析した上、他の現行法がディープフェイクポルノの被害者の個人的法益に配慮した建付けになっているかを検討し、今後の課題等についても言及したい。
    2  名誉毀損罪
     ディープフェイクポルノを作成・公開した加害者の行為は、自身の容貌を用いられた被害者との関係で名誉毀損罪(刑法230条)に問われ得る。近年では、実際にディープフェイクポルノによる名誉毀損罪の成立を肯定した裁判例もあるところ、ディープフェイクポルノを作成・公開した加害者には、常に名誉毀損罪が成立するのか。
    (1)名誉毀損罪の成立要件
     名誉毀損罪(刑法230条)は、「公然と」「事実を摘示」し、人の「名誉」を「毀損した」場合に成立する。
    ここでいう、「公然と」とは、摘示された事実を不特定又は多数人が認識しうる状態をいう。また、「事実を摘示し」とは名誉を低下させるに足る具体的なものである必要があり、「名誉」とは社会が与える外部的評価をいうと考えられている。
    (2)ディープフェイクポルノの作成・公開行為に名誉毀損罪の成立を肯定した近年の裁判例
    ア 東京地裁判決令和2年12月18日(裁判例①)
    (ア)事案概要
     被告人が人工知能を利用して動画中の人物の顔を加工することのできるフリーソフトウェアを使用し、女性芸能人の顔の画像を、市販されているアダルトビデオの動画にはめ込み、女性がアダルトビデオに出演しているように見える、いわゆるディープフェイクポルノを作成し、自らが運営するインターネット掲示板で公開していた事案。
    (イ)判決の内容(名誉毀損部分についての判旨)
    「このような行為は女性芸能人の側から見れば、タレントとしてのイメージとその名誉を毀損」するものであるとされた。
    イ 東京地裁判決令和3年9月2日(裁判例②)
    (ア) 事案概要
    被告人が、他の会社が著作権を有するアダルトビデオの女優の顔に芸能人らの顔を合成加工したディープフェイクポルノを作成して自らの運営するインターネットサイトに掲載した事案。
    (イ)判決の内容(名誉毀損部分についての判旨)
    「本件各動画は、アダルトビデオ女優の顔にA及びBの顔が合成されたものであるところ、顔と輪郭部分のつながり、顔の向き、表情の変化などはいずれも自然であり、本件各動画は精巧に作成されたものと評価できる。」とした上で、本件各動画の精巧さからすれば、各動画を見た者が、芸能人らがアダルトビデオに出演したものと誤信するおそれがあることは否定できないとしたうえで名誉毀損罪の成立を認めた。
    (3)私見
     裁判例①は、端的にタレントとしての名誉を毀損したと結論付けており、詳細な理由は述べられていない。その一方、裁判例②は本件各動画が精巧に作成されていたことから、動画を見た大衆が誤信するおそれがあり、容貌を用いられた者が「アダルトビデオに出演した」という事実を摘示するものであると評価された。そのうえで、当該事実が被害者の社会的評価を低下する事実であると判断されたことにより、加害者の行為に名誉毀損罪が成立するとした。
     名誉毀損の成立理由につき、裁判例①は、ディープフェイクポルノの公開により被害者の名誉が毀損されたとして名誉毀損と判断されている。しかし、その判決文からは、名誉毀損罪の成立要件との関係で、どのような論理で名誉毀損と判断したのかは判然としない。このような判決内容は、そして、ディープフェイクポルノの公開行為について名誉毀損罪が成立するかどうかの判断をブラックボックス化し、ディープフェイクポルノの公開行為について、裁判所の裁量次第で、被害者の名誉が毀損されたと判断されかねず、法的安定性を欠き妥当でない。
     一方、裁判例②では、ディープフェイクポルノの精巧さから、フェイクポルノを見た大衆が「アイドルタレントが真実そのような姿態をさらした」と誤信するおそれがあるとして、社会的評価を低下させる事実を摘示したとして名誉毀損罪が成立すると判断している。学説では、「一見してフェイクとわかる『チープフェイク』や『シャローフェイク』についてはアイドルタレントが真実そのような姿態をさらしたと事実摘示されていないため、名誉毀損罪が否定される可能性がある」という見解もあるが(上田正基「ディープフェイクと刑事法」87頁)、最近の生成AIの高い性能からすると、大衆がフェイクか否かを見分けることは困難と思われ、裁判例②が示したような論理に従えば、名誉毀損罪が成立する可能性は高いだろう。
    3 近年における被害者個人の法益に配慮した法律とディープフェイクポルノの関係性
    近年、ディープフェイクポルノの被害者自身の利益を保護法益とした立法がなされている。
    (1)私事性的画像の記録の提供等による被害の防止に関する法律
     2014年には、「私事性的画像の記録の提供等による被害の防止に関する法律」(リベンジポルノ防止法)が制定された。
     リベンジポルノ防止法の保護法益は、性的プライバシーである。この法律は、同法2条の「各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)」を「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者」を処罰するものである(同法3条1項)。同法2条の「各号のいずれかに掲げる人の姿態」とは、「性交又は性交類似行為に係る人の姿態」(1号)、「他人が人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(2号)、「衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」(3号)であることから、人の顔自体はこれら「姿態」には該当しないと考えられる。
     ディープフェイクポルノの場合、画像に用いられる顔部分と身体部分は別の人物のものになることから、ディープフェイクポルノの作成・公開による被害を主張する人物との関係では、顔だけが用いられており、上記の各「姿態」が撮影されているわけではないため、条文の文言上、当該人物について私事性的画像記録が提供されたとはいえず、同法による犯罪は成立しないと判断される可能性が高い。
     また、本規定においては、「撮影された画像」しか規制されていないことから、ディープフェイクポルノのように加工されて生成されたものは「撮影された」とはいえず、私事性的画像記録に当たらないと判断される可能性もある。
    (2)性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
     他にも2023年には、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が制定された。この規定の保護法益は、意思に反して自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由や、性的自己決定権である。
     この法律は、同法2条の各号に規定される「性的な部位」や「性的姿態」を撮影する行為を処罰するものである。そして、処罰対象は、「撮影行為」や「撮影」により生成された記録に限定されている。ディープフェイクポルノは、生成AIによって作成され「撮影」を要しないため、この法律による処罰対象にならない可能性がある。
    4 今後の課題
     現行法上、ディープフェイクポルノとの関係で、被害者自身の法益の保護を図りうるものとしては名誉毀損罪が挙げられる。上記で言及した裁判例を踏まえれば、名誉毀損罪は、生成AIによって精巧に作成されるディープフェイクポルノであるからこそ、名誉毀損罪の成立が認められやすくなることが考えられる。他方で、ディープフェイクポルノの公開行為に名誉毀損罪が成立するかどうかについて、詳細な当てはめを行った例は乏しく、名誉毀損罪の成否に関する適正な判断のためにも、今後の裁判例の集積が待たれる。
     そのほか、上記3で触れた性的プライバシー等を保護法益とする現行法は、現状、ディープフェイクポルノに関する行為の処罰根拠となる可能性は低いであろう。
    そのため、ディープフェイクポルノの防止という観点からは、立法が待たれるところであるが、すでに一定の取組みも行われている。
     例えば、鳥取県では、令和7年6月30日、「鳥取県青少年健全育成条例」の改正案が可決され、ディープフェイクポルノの作成行為に対する過料5万円以下の行政罰が導入された。
     政府レベルでは、令和7年9月29日、「子供や若者の安全なインターネットの利用に向けた対策の工程表」を発表し、2026年度中には具体策を検討してまとめる予定としている。
    他にも、SNSであるXに搭載された生成AIによる画像編集機能を悪用して、他人の画像を性的な画像に加工する被害が相次いでいることを受けて、政府がXに対して、不適切な画像が出力されないよう改善を求めたという報道もあった。
     もっとも、これらの動きだけで、ディープフェイクポルノ被害の防止につながるかは不透明であり、今後も生成AIの発展に伴う被害拡大を放置するのではなく、現行法の改正や新法の立法を含め、抜本的対策の検討が進められるべきである。
    参考文献・参考記事
    ・「生成AIの発展に対する刑法的対応」(渡邊卓也 ノモス第56号 2025年)
    ・「ディープフェイクと刑事法」(上田正基 神奈川法学第36巻 2023年)
    ・「生成AIと知的財産法の諸問題」(日原拓哉 立命館法学409号 2023年3号)
    ・「刑法各論」(第7版)西田典之著(2019年4月)
    ・「刑法各論」(第8版)前田雅英著(2025年9月)
    ・ディープフェイクポルノ規制条例、「過料5万円以下」導入へ 鳥取県 [鳥取県]:朝日新聞
    ・AIポルノ対策、26年度検討 子ども被害、政府工程表(共同通信) - Yahoo!ニュース
    ・生成AIで性的加工画像、政府がXに改善要請…AI法に基づき初の指導も検討 : 読売新聞