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デジタル庁「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」について

更新日:2024.08.08
    弁護士 岡田圭太
    1 はじめに
    2023年5月、地域のモビリティを支える技術の事業化に向けた「モビリティ・ロードマップ」を策定するため、デジタル庁のデジタル社会推進会議の下に「モビリティワーキンググループ」(以下「WG」という。)が設置された。
    そして、2023年12月25日、将来に向け自動走行車両を巡る交通事故等に関する社会的なルールのあり方について検討するため、WGの下に「AI時代における自動運転車の社会的ルールのあり方検討サブワーキンググループ」(以下「SWG」という。)が設置された。その後2024年5月23日に至るまで、計6回会合が開催されている。
    SWGにおいては、自動運転車に係わる社会的ルールをめぐる現状の整理、自動運転車に係わる社会的ルールの在り方について議論されているところ、本稿では、前者に絞ってその内容を整理する。
    2 自動運転車の実装による社会的課題の解決
    自動運転については、人口減少や交通事業者の経営環境悪化等、様々な社会的な課題がある。そのような課題の解決に向けて、2022年12月23日に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想総合戦略」においては、地域限定型の無人運転移動サービスについて、2025年度目途50カ所程度、2027年度100カ所以上という目標が掲げられており、その目標の実現に向けて、2024年度において、社会実装につながる「一般道での通年運行事業」を20カ所以上に倍増するとともに、全ての各都道府県で一カ所以上の計画・運行を目指すとされている。
    他にも交差点での円滑な走行を支援する「路外強調システム」の整備など、道路側の支援も推進するとされている。
    3 自動運転技術の現在地
    全国各地で、スタートアップ企業が中心となって、自動運転の実証事業を実施している。また、様々な状況における実走行データの収集などを通じ、自動運転技術の確立を目指している。自動車メーカーにおいても、2021年度より栃木県宇都宮市及び芳賀町にて自動運転タクシーサービスの実証事業が実施されている。
    技術面においては、自動運転の領域については、従来、物体認識において機械学習やディープラーニングを用いる一方で、それ以外の判断や制御においては、ルールベースの条件分岐によるプログラミングが主流だった。その一方で、設計・開発思想が従来OEMとは異なる新たなプレイヤーの出現や、走行環境の拡張・複雑化に伴い、判断や制御においてもAIの活用が進みつつある。特にTeslaは、現状の市販車において、認識・判断・制御すべてにAIを適用させたシステムを構築しているとされている。
    4 自動運転と現行法制度
    (1)関連する行政法規について
    道路運送車両法においては、41条1項に規定される装置の1つとして、自動運行装置が定められている。「自動運行装置」とは、国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係わる認知、予測、判断及び操作に係わる能力の全部を代替する機能を有するものとして、定義されたているところ、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」において、自動運行装置の保安基準の細目が規定されている。
    道路交通法においては、特定の走行環境を満たす限定された領域において、自動運転装置が運転操作の全部を代替するもののうち、一定の許可基準を満たすものの実施を可能とする許可制度が創設されている。
    道路運送法・貨物自動車運送事業法には、特定自動運行を用いて旅客自動車運送事業又は貨物自動車運送事業を行う場合には、運転操作以外の業務を行う主体として、特定運行保安員を置く必要があるとされている。
    (2)自動車損害賠償保障法
    国土交通省が2018年に取りまとめた「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」では、定の走行環境を満たす限定された領域において、自動運転装置が運転操作の全部を代替するものについては、従来の枠組みを維持することが適当であり、保険会社から自動車メーカーに関する求償の在り方については引き続き検討するものとされた。
    (3)事故調査に関する法制度
    自動運行装置を備えている自動車については、作動状態の確認に必要な情報を記録するための作動状態記録装置を備えることとされている。また、使用者等には当該装置により記録された記録の保存義務等が課せられるとされている。
    また、自動運行装置の製作者に対する報告徴収及び立入検査や特定自動運行実施者に対する報告及び検査等も規定されている。
    (4)行政処分について
    自動運転車の場合、交通事故が発生した場合で、交通の安全と円滑を図るため必要があると認めるときは、特定自動運行実施者に対し、許可の効力の仮停止を行うことや、特定自動運行に関し必要な措置をとるべきことを指示し、その処分に違反したとき等には、許可の取消し等を行うことが考えられるとされている
    (5)刑事責任について
    自動運転車による交通事故の発生は、自動運転車の個人所有者(非運転者)、旅客運送事業や貨物運送事業を行う企業の役員や従業員(非運転者)、自動運転車メーカー等の役員や従業員、インフラ側の役職員等の行為が、業務上過失致死傷罪等の犯罪の構成要件に該当する場合には訴追の可能性が想定される。他にも、道路交通法等の行政法規に規定される犯罪の構成要件に該当する場合には、当該行政法規上の罪により訴追されることも想定される。
    (6)民事責任について(人損事故の場合)
    運行供用者又は運転者の運転への関与度合いが減少することとなる結果、運行供用者又は運転者のミス以外の事象を原因とする事故の割合が増加する可能性がある。そのような事故の場合、被害者に保険金 を支払った保険会社がその事故の原因を生じさせた自動車のメーカー等に対して求償を行っていくことになる。技術の複雑化等により、求償に必要な情報(当該自動車に欠陥があるか否かを基礎付ける情報等)の取得が難しい可能性、欠陥又は過失の立証が困難であったり、認定できないケースが想定され、保険会社による求償権の行使が事実上困難となる可能性があるとされる。
    (7)民事責任について(物損事故の場合)
    運転者の運転への関与の度合いが減少し、運転者のミス以外の事象を原因とする事故の割合が増える可能性が想定される。具体的には、被害者又は保険会社が、旅客運送事業や貨物運送事業を行う企業、メーカー等に対して損害賠償請求又は保険代位に基づく求償請求を行う場合において、技術が複雑化したことにより欠陥があるか否かを基礎付ける情報が得られにくい可能性や、欠陥又は過失の立証が困難となるケース、認定できないケースが想定され、このようなケースにおいては、損害賠償請求が困難となる可能性がある。 その後の求償関係については、人損事故の場合と同様と考えられる。
    5 おわりに
    自動運転技術の進歩に伴い、運転者がいない状態においての自動運転である特定の自動運行の許可制度の創設等を内容とする道交法の一部を改正する法律が成立するなど、少しずつではあるが自動運転に対応する法律の制定がなされているのも事実である。しかし、自動運転の発展の仕方によっては、通常車両と自動運転自動車の事故といったものや、自動運転自動車の中でも、自動運転の自動化されている部分が異なる自動運転自動車同士の事故といったケースも想定される。そうなると、生じうる法的な争点もはるかに拡大することが想定される。今後、自動運転の分野において、どのように法的な整備がなされていくかについては今後の自動運転の発展を待つしかないだろう。
    参考
    「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」(デジタル庁)(https://www.digital.go.jp/councils/mobility-subworking-group)
    「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ報告書」(デジタル庁)(https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/1fd724f2-4206-4998-a4c0-60395fd0fa95/9979bca8/20240523_meeting_mobility-subworking-group_outline_04%20.pdf)をもとに加工