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AIに関する直近の動向 〜AI基本計画とプリンシプル・コード(案)〜

更新日:2025.12.29
弁護士   若竹宏諭
 わが国では、令和7年5月28日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(「AI法」)が成立し、同年9月1日から全面施行されている(同法の概要については、北村幸裕弁護士の令和7年7月4日付「日本におけるAIに対する法規制について」(*1)を参照されたい。)。
 その後、AI法に基づき、政府に人工知能戦略本部が設置され、人工知能基本計画(「AI基本計画」)と指針の策定に向けた検討が進められ、同年12月23日、AI基本計画が閣議決定された。
 一方で、「AI時代の知的財産権検討会」(「本検討会」)も令和7年10月以降、活動を再開しており、新ルールの策定に関する具体的な動きが見られる状況にある。
 そこで、本稿では、AI法施行以降、令和7年中のAIに関する政府の動向について簡単に整理したい。
AI法施行後の動向
1. AI基本計画の閣議決定とAI指針の決定
 冒頭で述べたとおり、令和7年9月以降、AI法に基づいて政府にAI戦略本部が設置され(*2)、同戦略本部では、令和7年内のAI基本契約の閣議決定と、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(AI指針)の策定に向けた作業が進められてきた。後者は、AI法13条において、「国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るため、国際的な規範の趣旨に則した指針の整備その他の必要な施策を講ずる」とされていることに基づくものである。
 
 いずれの内容についても有識者で構成される人工知能戦略専門調査会(*3)における議論を経た上で、AI指針については令和7年12月19日開催の第3回AI戦略本部においてその内容が決定され(*4)、AI基本計画は同本部における決定の上で、12月23日に閣議決定された(*5)。
2. AI基本計画
 AI基本計画は、生成AI等の急速な進歩(特にAIエージェント、フィジカルAIの進展)を踏まえつつ、日本では日常・業務での利活用が十分進まず、投資・開発面でも出遅れが顕著であるという危機感を認識した上で、AIを軸に経済・社会構造を変革する「AIイノベーション」を国家戦略として推進することを掲げている。

 そして、他国の後塵を拝している状況を踏まえてか、その中核価値として、日本の強みである「信頼性」を据え、AIの透明性・公平性・安全性をはじめとする「適正性」を確保することで「信頼できるAI」を再現し、これを軸として世界の結節点となることを目指すものとしている。

 このAI基本計画は、「3原則」と「4つの基本的な方針」を掲げる。
「3原則」
①イノベーション促進とリスク対応の両立
 人とAIが協働し、「人間中心のAI社会原則」(平成31年3月29日統合イノベーション戦略推進会議決定)に掲げられた理念を実現するために、イノベーションの促進とリスク対応の両立を徹底する。

②アジャイルな対応
 この両立に向けては、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを循環させ、変化に即応しつつ物事に柔軟かつ迅速に向き合うアジャイルな対応を志向する。

③内外一体での政策推進
 積極的な国際連携で、わが国が多様なAIイノベーションの結節点となるためにも、国内政策だけでなく、対外政策を表裏一体かつ有機的に組み合わせる内外一体でAIに関わる政策を推進していく。
「4つの基本的な方針」
 この3原則に基づく具体的な施策については、①AI利活用の加速的推進(「AIを使う」)、②AI開発力の戦略的強化(「AIを創る」)、③AIガバナンスの主導(「AIの信頼性を高める」)、④AI社会に向けた継続的変革(「AIと協働する」)、という「4つの基本的な方針」に基づく具体的な取組み例が所轄官庁ごとに列挙されている。
 その詳細は、AI基本計画原文にあたっていただきたいが、以下でいくつか言及する。
 「AIを使う」

 ほとんどの国民の間で、能動的かつ意識的に「まず使ってみる」という意識を広く醸成するため、まずは政府自らが率先して生成AIを安全・適正に調達・利活用したり、社会課題の解決に向けて、医療・介護、金融、教育、防災など広範な分野で実証・導入・社会実装を促進するだけでなく、事業や研究におけるAIの導入・利活用を支援することを謳っている。
 「AIを創る」

 AIロボットやフィジカルAI、そして創薬AI等、「日本の勝ち筋」となり得る分野への具体的言及がなされている。
 「AIの信頼性を高める」

 信頼できるAIエコシステムの構築として、事業者等によるAIの研究及び開発・利活用における適正性の確保に向けた自主的な取組を促すとともに、行政における円滑かつ適正な利活用に向けた、AI法13条に基づく指針その他各種ガイドライン等を整備することへの言及がある。また、AIの制御機能等の開発を支援するとしており、下記AI時代の知的財産権検討会の「中間とりまとめ」でも言及されていた「法・契約・技術」による対応に通ずる面がある。
 「AIと協働する」

 AIを基軸とする新たな産業構造の構築を図り、人とAIが協働する新たな社会のための制度や社会の仕組みの変革や、AIの利活用や開発を担う人材に育成・確保といったいわば実際上の問題への指摘だけでなく、「AI社会において人が人としての価値を発揮するため、創造力、思考力、判断力、適応力、コミュニケーション力などを含む「人間力」向上を図る」といった、より根源的とも思える問題への言及がある。
3. AI指針
 AI指針は、信頼できるAIの実現に向けて、事業者、国民等の全ての主体におけるAIの研究開発・活用の適正な実施に係る自主的かつ能動的な取組を促すために策定されたものである。

 このAI指針は、全ての主体におけるAIの研究開発・活用の適正性確保に必要となる主な要素と基本方針を示した上で、各主体が当該方針を前提に特に取り組むべき事項を提示しており、全ての主体が、適正性確保に必要となる主な要素を認識、理解することを求めている。
 
 本指針の内容の概要は、内閣府作成の以下の資料のとおりである。
※内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針の概要」(https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_guideline/ai_gl_2025g.pdf)
 ただし、それぞれの取り組むべき事項について、画一的な基準があるわけではなく、各主体の規模や立場、AIがもたらすリスクに応じて、その時点で適用し得る技術や知見を踏まえて適切な水準で対応すればよいとされている。
 これは、AIの発展の速度や、AIの関わり方が多様であることを考慮した結果であると思われる。

AIと知的財産権に関する直近の動向
1. AI時代の知的財産権検討会の活動再開
 AI基本計画の閣議決定に向けてAI戦略本部が検討を進めていた一方で、令和6年5月に「中間とりまとめ」を公表した「AI時代の知的財産権検討会」(本検討会)も令和7年10月から活動を再開していた(*6)。
 本検討会は、同年10月24日に第8回会議を実施し、その後、月1回、会議を開催している(11月17日第9回、12月12日第10回)。
2. 議論の状況
審議内容
 再開後の審議内容について、第8回会議では、次のような説明がある(*7)。

 AI戦略本部の発足、知的財産推進計画2025の決定、文化庁による「AIと著作権に関する考え方」のとりまとめ等の関係省庁の取組といった状況を踏まえ、「データの信頼性・安全性といったものを高めつつ、生成AIに係る開示に向けた各種の対応を推し進めるため、例えばガイドラインのようなものを所謂AI法の施行に際して策定するということを検討している」とし、「法律上の観点の整理」、「技術による対応策」、「収益の還元のあり方」あるいは「契約のあり方」について、「知財を守りながらAIに関する技術の発展というものをどのように慫慂していくか、推進していくか」を審議していく。
3つの論点例
 そして、審議に関する論点例として次の3つの論点(*8)が提示され、委員からの意見が聴取された。
  • データの収集や、生成AIに係る開示・表示、保護データに係る対価還元、保護データに係る侵害防止技術、海賊版・偽情報・誤情報のスクリーニングに係る技術など、データの信頼性・安全性を含め生成AIに係る開示に向けた各種の対応が必要と考えられるところ、どのような方向で検討を進めるべきか。
  • 法・技術・契約の各手段を適切に組み合わせながら、連携した取組が重要であるところ、データ利活用に伴う対価還元を進めていくため、どのような課題を特定しつつ、取組を進めていくべきか。
  • 直近の生成AIと知的財産をめぐる技術動向や、国内外の裁判例等も踏まえつつ、AIとデータの取扱いについて、どのような将来像を想定しておくべきか。
プリンシプルコード案
 第9回会議の議事次第及び資料は、本記事公開時点で公表されていないものの、議事要旨(*9)によれば、適切な財産の保護と活用につながる透明性の確保のあり方として、任意のガイドラインによる取組を推進する可能性等が審議され、各委員から、賛否両論様々な意見が出された。
 各委員からは、その方向性に賛同して、ソフトローによる柔軟な対応についてポジティブな意見がある一方で、国内事業者だけが遵守して外国企業は守らないのではないか、メガプラットフォームが守ろうとするのか等、ガイドラインの実効性に疑問を呈する意見が散見された。

 以上の議論を経た上で、第10回会議では、資料として、「AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」(「プリンシプルコード案」)が提示されている(*10)。同会議の議事録は本記事公開日時点で未公表であるもののプリンシプルコード案の内容が議論されたものと推測される。

3. プリンシプルコード案の内容
 上記のとおり、プリンシプルコード案については、ソフトローであるがゆえ、その実効性について疑問が呈されている状況であり、これが実際に策定されるか否かは現時点で不透明である。もっとも、AI基本計画においてガイドライン等の整備への言及もあり、少なくともプリンシプルコード案をベースに何らかのルールが策定される可能性もある。
 以下では、現在のプリンシプルコード案の内容について概観するが、紙幅の関係から、適宜要約しているため、詳細は原文をあたっていただきたい。
基本的な考え方(目的)
 AI事業者が行うべき透明性の確保や知的財産権保護のための措置の原則を定め、もってAI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の両立に向け、権利者や利用者にとって安全・安心な利用環境を確保すること
適用対象=「AI開発者」と「AI提供者」
「AI開発者」
 AIモデル・アルゴリズムの開発等を通してAIモデル、AIモデルのシステム基盤、入出力機能等を含むAIを構築する役割を担うものであって(その目的、法人・個人の別を問わない。)、当該開発にかかるAIシステムの全部又は一部を公衆に提供した者

「AI提供者」
 AIシステム・サービスの提供等を担う者(その目的、法人・個人の別を問わない。)であって、AIシステムをアプリケーション、製品等に組み込んだAIサービスを公衆に提供した者

 自社データに基づく自社のみが使用するAIシステムの提供者は「AI開発者」に含まれない。また、特定の一社のデータに基づく特化型のAIサービスを当該一社のみに提供する者は「AI提供者」に含まれない。
 なお、国外事業者でも、日本に向けて提供される場合は対象とされる。
規制手法:コンプライ・オア・エクスプレイン
 スチュワードシップ・コードを参考とした手法である。

 ・原則実施を基本とし、実施しない場合は「実施しない理由を十分に説明」する。
 ・AI事業者に帰属する情報(営業秘密等)の強制開示を求める趣旨ではない。
 ・原則を実施した上で、併せて具体的取組を積極的に説明することも推奨。
 受入状況の可視化として、以下の事項が期待されるとする。

 ・コーポレートサイト等での①受入れ表明、②各原則の実施項目(実施しない原則があれば理由)を公表
 ・内閣府知的財産戦略推進事務局作成のコンプライ・オア・エクスプレインに係る参考様式に基づく届出
 ・毎年の見直し・更新(更新した旨も公表)

 なお、政府側は、届出内容の審査は行わず、第三者からの照会等にも回答しないとする。
3つの原則
(1) コーポレートサイト等での開示
 コーポレートサイト等において、以下の①②の「開示対象事項」の概要を開示し、誰でも閲覧可能な状態にする。

①透明性確保のための措置
 使用モデル:名称(識別子/バージョン)、来歴、アーキテクチャ/設計仕様、利用規定、トレーニングプロセスの内容等
 データ関係:学習及び検証等に用いられたデータ、クローラ
 アカウンタビリティ:開発等における意思決定等の追跡・遡求が可能な記録(記録方法、頻度、保存期間等)
②知的財産権保護のための措置
 ・知財保護の原則の策定と責任体制の明確化、年1回以上の見直しと要旨公表
 ・データ活用(開発・学習等を含む)で他者の知財を侵害しない
 ・ペイウォール等のアクセス制限の尊重・robots.txt等の採用の取組等
 ・学習ログの一定期間保持
 ・海賊版サイト回避
 ・知財侵害生成物を防止する技術的措置。
 ・利用者への注意喚起(知財侵害のおそれがある生成物の利用回避)
 ・電子透かし/C2PA等のコンテンツの出所や来歴を証明する技術の実装
 ・権利者向け窓口の整備と対応記録保存等
(2) 法的手続等を検討している者への権利実現のための情報開示
 訴訟等の法的手続を現に行い又は準備する者からの詳細開示要求(原則1(1)の使用モデル関係の事項を除く)について、以下の要件①〜④充足時は、当該詳細+事業者意見を開示するものとする。

 ①手続主体に該当する理由の提示
 ②利用目的の明示及び目的外利用しない旨の誓約
 ③URL等で特定(AI事業者が容易に確認可能な情報の提示)+開示要求事項の特定
 ④求める意見の特定

 なお、AI事業者において、技術的課題やコスト等を踏まえ、合理的な判断の下、過大な負担を回避するべく、開示対象事項の開示に係る対応方針を自ら明確化して公表することが望ましい等が細則において言及されている。
(例)
 自ら作品を創作してウェブサイトAに掲載している者が、当該作品と同一又は類似のAI生成物を発見したため、AI事業者に対して、当該ウェブサイトAの作品掲載ページのURLを示して、当該ドメインがクローラによるクロール対象に含まれているか、第三者から提供を受けた学習データの取得源に含まれているか等について開示を求める場合
(3) サービス利用者等からの開示の求めがあった場合の意見開示
 サービス等を利用した生成物が、別のところで同一又は類似のものが見つかった場合、それが学習対象となっているかについての意見開示である。
 ただし、対応を要するのは当該要求が以下の事項を示している場合に限られる。

 ①開示を求める者の生成に係る当該生成物
 ②当該生成物を生成する際に用いたプロンプト
 ③当該生成物の利用目的
 ④当該生成物と同一又は類似するコンテンツ(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律第2条1項に定める「コンテンツ」をいう。)が掲載されたURL
(例)
 画像を生成することができるAIサービスAを利用してAI生成物を生成した者が、当該AI生成物と同一又は類似する画像がウェブサイトBに掲載されていることを発見した場合に、AIサービスAを提供するAI提供者に対して、当該AI生成物、当該AI生成物を生成する際に用いたプロンプト、当該AI生成物の利用目的及びウェブサイトBのURLを示して、当該URLのドメイン部分がAIサービスAに搭載されたAIシステムを開発する際の学習データのクロール対象に含まれているか、第三者から提供を受けた学習データの取得源に含まれているか、仮にAI提供者において回答できない場合には、AIサービスに搭載されたAIモデルを開発した者の名称について開示を求める場合
コンプライせず、エクスプレインする場合の留意事項
 AI事業者が本原則の全部又は一部について実施せず、その理由を「エクスプレイン」するとしても、実施しない原則に係る自らの対応について、利用者や権利者の理解が十分に得られるよう工夫すべきとされる。

 なお、実施することを表明していた場合であっても、利用規約等の規定に基づき開示対象を絞るなど、実質的に各原則を実施していないと評価できる場合には別途「エクスプレイン」を要するものとされる。
さいごに
 本記事では、AIに関する令和7年中の政府の動向を紹介した。
 
 AI基本計画は、その性質上、事業者等に直接的に影響を与えるわけではないが、それぞれが属する業界等に対して今後実施されうるAI関連の政策の見通しが立つものと考えられる(なお、経済対策については、第3回AI戦略本部において、「経済対策におけるAI施策について」という資料が共有されている。)。
 もっとも、この基本計画は、当面の間、毎年変更を行うものとされており、今後のAIの発展に伴い大きく変更される可能性が十分にある。

 一方、プリンシプルコード案は、AI基本計画及びAI指針と異なり、AI開発者及びAI提供者に対して、具体的な行動を求めるものとなっている。
 スチュワードシップコード等の例を踏まえれば、仮にプリンシプルコード案が正式に決定、策定された場合には、少なくとも国内企業はこれを遵守する姿勢を一定程度示すものと思われる。一方で、現案はペナルティを伴わないソフトローに過ぎないことから、外国企業など、必ずしもこれを遵守しない者が現れ、その実効性が課題となることは、本検討会委員からの意見のとおりであろう。
 今後の検討において、その実効性を確保するために、どのように内容が変わっていくのか(あるいは変わらないのか)、令和8年の動向が注目される。
*1https://oikelaw-plus.com/blog/982/
*2https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_hq/ai_hq.html
*3https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_expert_panel/ai_expert_panel.html
*4https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_guideline/ai_guideline.html
*5https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html
*6https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/kaisai/index.html
*7https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/dai8/gijiroku.pdf
*8https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai8/shiryo3.pdf
*9https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/dai9/gijiyoshi.pdf
*10https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai10/shiryo2.pdf